ユニバーサルインフルエンザワクチンの開発に向けて一歩前進
あらゆるインフルエンザウイルスに有効な「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に向けて、研究が前進している。ユニバーサルインフルエンザワクチンは、将来のインフルエンザのパンデミックと戦う武器になる可能性を秘めている。
米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)ワクチン研究センターのSarah Andrews氏らは、第1相臨床試験において、実験段階にあるインフルエンザワクチンによってさまざまな種類のA型インフルエンザウイルス株に対して交差反応性を示す抗体が誘導されたことを確認。その詳細を、「Science Translational Medicine」2023年4月19日号に発表した。
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれるタンパク質の抗原性の違いを基に、いくつかの亜型に分類されている。
一方、B型インフルエンザウイルスには亜型はないが、HAの抗原性の違いから2種類の系統に分けられている。現在使用されているインフルエンザワクチンは、A型ウイルスの2種類の亜型と、B型ウイルスの2系統のウイルスの計4種類に対して効果のあるワクチンだ。
ワクチンには、弱毒化あるいは不活化されたインフルエンザウイルスのHAが複数種類含まれている。HAの構造は頭部とステム(茎)領域に分けられ、インフルエンザワクチンを接種したり、インフルエンザウイルスに感染したりすると、免疫システムがHAの頭部に対する抗体を作る。
しかし、HAの頭部は抗原変異を起こしやすい。そのため、そのシーズンに主に流行すると予測される4種類のウイルス株を選び出し、それらを用いたワクチンをシーズンごとに製造する必要がある。
これに対してHAのステム領域は、さまざまなインフルエンザウイルス株の間で比較的安定的に保存されている。ただ、Andrews氏によると、人間の免疫反応はHAのステム領域には向かわず、頭部を標的にするようになっているという。
そこで、同氏らはHA頭部の可変領域を切り落として免疫システムの攻撃が頭部に向かわないよう設計した蓋のようなものに付け替え、「免疫システムにはステム領域のみが見えるようにした」ワクチンを開発した。
ヒトを対象とした初の臨床試験において、Andrews氏らはこの頭部の欠落したHAを用いたワクチン(H1ssF)を52人の健康な成人に投与した。
ワクチンは、20μgを1回(5人)、または60μgを2回(47人)の2パターンで投与され、60μgのワクチンを接種する群では35人(74%)が2回の接種を完了した。
その結果、ワクチンを接種した人の19%(10人)が注射部位の痛みまたは頭痛といった通常のインフルエンザワクチンでも生じる副作用を経験したのみであり、ワクチンは安全であると考えられた。
免疫反応に関しては、A型インフルエンザウイルス株に対してワクチン接種により幅広い抗体反応が示され、接種から1年後もA型インフルエンザウイルス株に対する中和抗体が維持されていることが確認された。
ただし、ワクチンはA型インフルエンザウイルス株のHAを用いたものであるため、B型インフルエンザウイルスに対する抗体反応は確認されなかったが、「これは予測されていた結果であった」とAndrews氏は説明している。
研究グループは、この段階の臨床試験で望み通りの成果が得られたという点では、希望の持てる結果であると話している。
ただしAndrews氏は、実際にこのワクチンが人々をインフルエンザから守ることができるかどうかについては、現時点では不明だとしている。また、今後の研究が全て順調に進んだとしても、ワクチンの実用化には5~10年はかかると予測している。
米ワイル・コーネル大学医科大学院准教授で米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンでもあるMirella Salvatore氏は、Andrews氏らのワクチンが今回、初期試験をクリアしたと指摘。
「ユニバーサルインフルエンザワクチンは、シーズンごとに流行株を予測する必要性をなくすだけでなく、今後起こり得るインフルエンザのパンデミックから人々を守ることができる可能性を秘めている」と今後の展開に期待を寄せている。(HealthDay News 2023年4月20日)
Copyright © 2023 HealthDay. All rights reserved.
Photo Credit: Adobe Stock
(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.ade4790
構成/DIME編集部