■連載/阿部純子のトレンド探検隊
侵入被害から分析した犯罪の起こりにくい環境づくり
帰省や旅行などで、留守にすることも多い大型連休。最近は組織的な広域強盗事件が連続して発生しており、留守中の防犯をどうすべきかと不安を感じる人も多いのではないだろうか。
へーベルハウスで知られる旭化成ホームズの「くらしノベーション研究所」は、都市住宅を中心とした住まい方・暮らし方を研究している組織で、生活に関わるさまざまなテーマを研究している。
そのひとつが「住まいの防犯研究」。アフターサービスでの修理記録を図面と照合して被害箇所を特定、位置や特徴を分析することで、犯罪の起こりにくい環境を提案している。
くらしノベーション研究所 顧問の松本吉彦氏(下記画像右)、くらしノベーション研究所 主任研究員の柏木雄介氏(同左)に、住まいの防犯研究からわかった住宅侵入の被害傾向や、大型連休に向けた身近な防犯習慣3つのポイントを教えていただいた。
警察庁の統計データによると、2021年までは侵入窃盗(=泥棒)の件数は年々減少していたが、直近3か月の2023年の1~3月は前年より増えている。2021年の警察庁のデータでは、戸建住宅で起きる犯罪としては侵入窃盗が1万3551件と圧倒的に多く、「ルフィ事件」で報道されたような強盗事件は67件と稀なケースであった。
戸建住宅での侵入窃盗の手口のうち、58.2%と圧倒的に多いのが居住者が留守にしている時の「空き巣」で、居住者が在宅中でも就寝時の「忍び込み」が36.0%、居住者が在宅して非就寝時の「居空き(いあき)」が5.8%となっている。
出典:警察庁「令和3年の犯罪」
「実は空き巣の比率が少しずつ減ってきて、人がいても入ってくるケースが増えています。金品を盗るのが目的であれば、留守宅を狙う方が成功率が高いことから“合理的な犯罪”の空き巣が多かったのですが、人がいても侵入してくるケースが増加してくると、偶発的に犯人と出遭うリスクも出てきます。
考えられる理由の一つが、指示役が実行役を集めて行う犯罪の組織化。ルフィのケースでは強盗でしたが、ボリュームの大きい空き巣でもそれが起きており、お金がある家という情報を元に、人が在宅していても侵入させるという手口を危惧しています」(松本氏)
出典:警察庁「令和3年の犯罪」の認知件数を基に旭化成ホームズ作成
旭化成ホームズでは、敷地の防犯環境設計を行う「ゾーンディフェンス」、窓などの開口部の強化を行う「ハードディフェンス」、居住者が用心する習慣をサポートする「ソフトディフェンス」の3つの観点から防犯対策を提案している。
〇侵入されにくい工夫
人目に付きやすい玄関から離れた、敷地内奥へと侵入されないためには、鍵付きの仕切り戸を「ディフェンスライン」として設置することが最善だが、DIYでディフェンスラインを作ることも可能。心理的に入りにくいと思わせるように、建物側面に自転車を置いたり、簡易的な柵を置くだけでも侵入禁止の意思表示になる。
同社の独自調査では、侵入リスクが高い場所として東京を含めた多くの地域が建物背面や側面といった奥に集中しているが、中部地方だけは建物正面や側面手前まで被害が広く分布している。背景には愛知県の特殊事情として車で乗りこむ犯罪グループの存在がある。
こうした犯罪者は3~4 人のグループで盗難車を使って乗り込んだと想定されるという情報があり、外出の際にカーポートに車がない状態だと敷地内に車を乗り入れやすく、車が死角をつくるため犯罪者が侵入しやすい。
対策として、車の停まっていないカーポートへの車の乗り入れを防ぐ「カーポートバリア」が有効。門扉やカーゲートを付けたり、鉢植えやプランターの植物を置くなど工夫をすることで、留守だと思われにくい、車で乗り込みにくいといった効果がある。
へーベルハウスでは侵入被害の調査を15年間継続しているが、シャッターまで破られたケースは7件しかなく、シャッターを閉めておくことも防犯には有効。昼間は開けたまま出かける人も多いが、帰りが夕方から夜になってしまう場合、暗くなっても空いたままのシャッターは留守に見えて侵入されやすい。外出するときは昼でもシャッターを閉めるように習慣づける。
また、面格子付きの窓であれば侵入例は少ないが、窓を開けっぱなしにしてしまうことで面格子付きでも侵入されてしまうケースもある。特に多いのが浴室。40㎝角程度の小窓でも実際に入られたケースがあり、面格子付きの小窓でも油断せずに外出時は必ず閉めるようにする。
同様に格子付きの勝手口ドアの上下窓も狙われやすい。はめ殺し網戸一体の格子があるので、安心して開け放しがちだが被害例は多い。
〇見守りやすさを確保する工夫
人感センサー照明は間違った向きになっているケースが非常に多い。犯罪抑止として効果的なのは通行人に発見されることであり、道路から侵入者が見やすいように、照明を被害に遭う可能性のある敷地奥の窓の方に向ける順光で照らすようにするのが正しい向き。
しかし実際にはよくあるケースとして、侵入者が入ってきたときに驚かせるため侵入路の方にライトを向けてしまい、奥に入ると道路からは逆光となり侵入者が見えにくくなってしまう。照明は見守りが目的なので、敷地の奥は明るく見やすい方向に照らす。
また、植え込みを刈り込んで見通しを良くすることで、外からの監視の目を活かしやすい。
〇留守に見えないような工夫
長く家を空ける場合は、留守であることをいかに隠すかがポイント。室内を1箇所点灯しておくことで在宅しているように見せる「居るふり照明」が有効。
気を付けたいのが門灯。門灯を昼間でもつけっぱなしにしていると、逆に留守だと気づかせてしまう可能性もあるため、タイマー等を活用し昼間は消した方が良い。
2階の室内だと、昼間は電灯がついていることがわかりにくいので、数日不在にする場合には、1階はシャッターを閉め、2階だけ点灯しておく。
インターホンも兆候を捉えやすい。侵入者は居住者の在宅を確認する際にインターホンのカメラを手で隠すことが多いので、留守中に録画している画像に真っ黒なものがあれば、下見などの侵入者の兆候を察知でき用心につながる。在宅中でもインターホンで確認し、いつもの配達員とは違う服装など、違和感を覚える場合は開錠しないようにする。
長期間不在にする場合は新聞を止めておく、不在時に置き配の手配はしないといった細かな配慮も防犯につながる。郵便ポストの中を見られて個人情報を盗られるというケースもあるため、ポストにロックをかけることも大切。
「防犯はできるだけ手前で止めるのが重要です。通行者の見守り、インターホンでの状況の把握、外構で仕切るといった敷地に侵入しようとする手前でどう予防するか、ここまでで侵入者を阻止できれば防犯対策としては“勝ち”でしょう。
予防対策を突破されたときに備え、錠やガラスといった窓の強化で抵抗する、万一侵入された場合に備えて警備会社を使って対処する、ここまで踏まえた総合的な防犯をすることが大事です」(松本氏)
【AJの読み】大型連休のみならず日頃から心掛けたい防犯対策
くらしノベーション研究所の松本・柏木両氏の話を伺っていて、戸建住宅に住んでいる筆者は「えっ!?」「そういえば……」と思い当たる節が多過ぎて、防犯意識が低さを思い知らされた。
筆者の場合、在宅時は玄関の鍵や1階のシャッターは開けっ放し、浴室の小窓も湿気がこもらないように開けており、1階には下りずほぼ終日仕事場のある2階で作業している。“プロ”の泥棒になると10分で終わらせてしまうことも多いそうで、1階に侵入されても気づかない可能性が高い。
空き巣ならまだしも、こうした「居空き」のケースは鉢合わせという最悪の事態も考えられ、改めて防犯対策の必要性を感じた。今回紹介した3つのポイントは、家を空ける機会の多い大型連休のみならず、日頃からぜひ心掛けたい防犯対策なので、習慣づけるようにしたいものだ。
文/阿部純子
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