■連載/阿部純子のトレンド探検隊
原宿にオープンした「友達がやってるカフェ/バー」は、友達のバイト先に行っているような感覚で店員が接客するというカフェ&バー。店員も客も入店や注文、店を出るときにも、まるで友達のようにおしゃべりしながら盛り上げるという仕掛けだ。
仕掛人・明円卓氏が語る「友達の店」にした理由とは
「友達が~」を企画・プロデュースしたのは、コーヒー屋のフリをしたバー「JANAI COFFEE」や、”やだなー”と思う事象をあつめた「やだなー展」などを手掛けたクリエイティブディレクターの明円卓氏。
「レビュー文化が圧倒的になっている今、飲食業はレビューの評価に左右されて、お客さんに対して、完璧なサービスをしなくてはいけないという現状があります。ネガティブなレビューをされても飲食店側ではそれを消すことができないので、悪い印象のままずっとネット上に残り続けてしまう。その背景には日本の『お客様文化』があると思います。
僕は実験という言葉をよく使うんですが、『友達がやってるカフェ』は、関係性を最初から『友達』に設定することで、店員とお客さんの目線を等しくしてみたらどんな体験になるだろう、という実験です。スタッフが雑に接するほどに嬉しくなっちゃう、そんな不思議な体験を作れればと思います。
今回の企画もそうですが、まず言葉から考え付くというところがあります。普段の会話で出てきた『どこで飲むコーヒーが一番おいしいかな?』『友達がやっているカフェで飲むのが一番おいしいんじゃない』みたいな。『JANAI COFFEE』もコーヒー屋のふりをした“コーヒー屋じゃないバー”という言葉からつけたもの。日常会話で『あ、今の面白いかも』と思ったことを形にしていることが多いです。
僕がやりたいと思っていることは『人の記憶に強烈に残る1日を作りたい』というのが根底にあって、それが飲食店や展示では作りやすいので、思いついたものを形にしてきました。新しいアイデアでやりたいと思っているものはめちゃくちゃあるので、お金と体力と時間さえあれば、形にしていきたいと思っています。今は一緒にやってくれる仲間を集めている状況です」(明円氏)
接客するのは全員、役者やモデル、ダンサーといった表現力で勝負できる、エンタメ業界で活躍するスタッフたち。スタッフの一人である、女優、モデルとしても活動している橋口果林さんに、どうしてこんなにハードルの高いアルバイトを選んだのか聞いてみた。
「明円さんがツイッターでスタッフ募集をしていたのを見て応募しましたが、応募フォームに自分の芸歴や演技経験を書いたところ面接の案内が来ました。面接では明円さんもいらして、飲食経験というよりは演技に対するモチベーションや、どのような女優になりたいのかなど、飲食系の面接とは全然違った内容で驚きました。でも人柄を重視していることを感じましたし、明円さんからぜひ一緒にやって欲しいと連絡をいただいてうれしかったですね。
一番大変なのはお客さんのテンションに合わせてアドリブで対応しなくてはいけないこと。注文でもすぐに決定しないで、さりげなくかわしつつ探りながら、こちらから振ったメニューに対する反応を見て決めていくという感じですね。飲食でのアルバイト経験がありますが、普通の飲食とは全く違うスキルが求められます。
演劇ではエチュード(即興劇)がとても苦手だったので、このお店のお仕事は自分のスキルアップにも繋がる、演技を磨ける経験になるのではないかと思っています。
一緒にやっているスタッフのみなさんも役者やダンサーなので、舞台があって行けないときなど代わりに入ったり、シフトも助け合いながらできるので、仕事場の空気感もすごくいいなと感じています」(橋口さん)