安心・安全なデジタル社会を実現するうえで、サービス利用時にユーザーひとりひとりを識別したり、認証したりすることは必要不可欠だ。これからますますデジタル上での経済活動は活発になる中で、デジタルアイデンティティがどのように活用されているかを見ていこう。
日常生活で使うオンラインサービスに加え、メタバースなどで使うたくさんの属性情報を持つアバター、物がインターネットにつながるIoTも広がってきた。このようなデジタル社会では、自分が何者か、所有する機器は誰のモノか、正しく認証する必要がある。それに利用するのが「デジタルアイデンティティ」である。
デジタル社会で人や物を識別するために重要な要素
デジタル化が進む社会で、経済活動を営む人々に必須の要素となる「デジタルアイデンティティ」とは何か? まず、アイデンティティの日本語訳「自己同一性」は、「自我の意識」を意味することが多いが、人や物を識別する「属性の集合体」と考えるといいだろう。
例えば、「私はラーメンが好きな30代の雑誌編集者だ」「このPCはWindows 11で、1TBのSSDと16GBのメモリーを搭載する」というように、識別のために様々な属性情報がある。メタバースのような仮想空間で、自分の化身をアバターで表現したものは、まさに属性の集合体である。これらをデジタル空間やデジタル機器上に記録し、認証・利用する仕組みが「デジタルアイデンティティ」だ。イメージしやすいのはID・パスワードなどによる本人確認のシーンだろう。こういったシーンでは認証情報(クレデンシャル)の意味でアイデンティティという言葉が使われる。認証情報も属性の一部であるというわけだ。
少子高齢化や地域経済衰退で、国を挙げてDXによる生産性向上を推し進める日本では、今後、デジタルアイデンティティをどう活用していくのかが重要な課題となっていくはずだ。
おさえておくべきキーワード
SSI
Self Sovereign Identityの略称で、日本語では自己主権型アイデンティティという。属性情報を持つ個々人が、自らのデータを、他者に介入させずに、かつ自らの意思でコントロールすべきという考え方のこと。
DID
「Decentralized Identifier」の略称で、分散型IDを実現するための識別子を指す。企業や政府などの中央集権的なID管理基盤に依存せずに、ブロックチェーン技術などで、オンライン上で分散して属性情報を管理する。
分散型ID
企業や政府などの中央集権的な組織から独立して個人が管理するIDのこと。ここでいうIDは身分証明を表わす「Identification」である。DIDと混同されることも多いがDIDは分散型IDを実現する仕組みである考え方や識別子。
eKYC
Electronic Know Your Customerの略称で、オンライン上で完結する本人確認のこと。スマホやパソコンのカメラを使って、免許証などの身分証と一緒に撮影したセルフィー画像をサービス提供元に送信するやり方が一般的である。
知らずに使ってる?実はすでに身近な存在になっているデジタルアイデンティティの今と未来
【カーライフ】人とクルマを正しく管理する
自分の所有するクルマを他人に貸し出せるカーシェアリングでは、所有権の証明や利用者の本人確認、利用責任の所在確認、利用料の支払いなど様々な認証シーンがある。人対人のそれに加えて、いつどのクルマを誰が利用したか、そのクルマは今どこにいるか、誰が鍵を開閉できるか、といった多数の情報管理が必要となる。利便性を高めて、誰でも安全に、気軽に利用できるようにするためにデジタルアイデンティティが活用されている。
【IoT】その家電は本当に自分の家にあるモノか?
最近ではパソコンやスマホといったモノだけでなく、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品がネットに接続するようになった。外出先からのリモート操作や、ECサイトへ自動で野菜や果実を注文するといったことがすでに可能になっている。所有する機器が増えるほどに管理が煩雑になるが、ハッキングによる不正な操作に対するリスク管理や本当に自分のモノかを認証するうえでもデジタルアイデンティティが必要となる。
【キャッシュレス】悪意のある人から資産を守る
現金を持ち歩かずスマートフォンやカードで決済するキャッシュレス社会では、ハッキングによる資産流出や偽造アカウントや偽造カードによる不正決済のリスクが伴う。セキュリティー強化が社会課題になると同時に、これを強化しすぎると利便性が損なわれてしまうジレンマがある。そのスマホは本人のものか、またその支払いは本人の利用かと確認するために時間や場所、金額などの属性情報が金融機関によってモニタリングされている。
AIの進化でデジタルアイデンティティはどう変わるのか?
会話型AI「ChatGPT」が一大ブームだが、会話型AI同士が活発にコミュニケーションする時代はそう遠くなさそうだ。この時、デジタルアイデンティティはどう扱われるのだろう。AIは利用者のアイデンティティの一部なのか。自我を確立し、様々な属性情報を持つひとりの人間として扱うのか。前者だと利用者がAIの不法行為の責任を持たねばならぬし、後者であれば罰せられるのはAIそのものになる。今後セキュリティーやプライバシーなどの課題とともに検討すべき課題だ。
代理人として活動する、ひとりの人間として活動する、といったAIの登場はアイデンティティの問題に一石を投じることになるだろう。
取材・文/久我吉史
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取材・文/久我吉史
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