過酷な環境に晒されつつある現代のビジネスパーソンの悩みは多い。だが、日々直面する課題の中には、私たちの人生をより豊かにするためのヒントが詰まっているという。異色の経歴を持つVTuberの短期集中連載、もう少し続く第4回!
劣等感への処方箋
SNSやYouTubeを見ていると、同世代や年下が活躍している姿を目の当たりにし劣等感を覚えます。「自分は世に爪痕を残せるのか?」と焦りを感じています。(33歳、担当編集)
【結論】焦りは「向上心の表われ」自分への不満を活力に変えよう
その感情、そもそも本当に「劣等感」ですか?
まさかこの連載の担当編集さんからお便りが来るとは……。お悩み、ありがとうございます(笑)。
さて、短い文章ながらも、本人が周囲の活躍を見て日々悶々としている様子がうかがえます。似たようなお悩みを抱えている方にまずお伝えしたいのは、同様のお悩みを持っている方は多数いるということです。
ここで考えてほしいのは、活躍している人を目の当たりにして抱く感情は「本当に劣等感なのか?」という点です。劣等感とは「自分が他者と比較して劣っていると感じること」を一般に言いますが、お便りを寄せてくれた編集さんの場合はどうやら違いそうです。きっと「もっと自分は評価されたい」という静かな願望で、編集さんは若くして成功しているYouTuberやインフルエンサーに嫉妬しているのだと思います。
劣等感と嫉妬は似て非なるもので、本当にざっくり説明するならば、劣等感は相手を過剰に持ち上げて自身を下げることで生まれるもの。一方、嫉妬とは相手を下げて相対的に自分の評価を上げることで生まれる感情です。もし今回の質問文が本当に〝劣等感〟によるものならば、「俺なんてどうせダメダメだ」となるはず。「自分もなにか成し遂げたい、何か爪痕を残さないといけない」という焦りは生じないでしょう。
編集さんは同世代や自分よりも若い才能の登場に、ある種の危機感を覚えているのと同時に、彼らが評価されていることに不満があるのだと思います。しかし、嫉妬は必ずしも悪い感情ではありません。受け止め方を変えるだけで、自身の成長につなげることができるようになります。
「何でアイツが!?」は同じ身分だから湧く感情
嫉妬をわかりやすく言語化すると、「自分もあいつみたいになれたのになれなくて悔しい!」という感情です。
例えば、アナタが中流階級出身者だとしましょう。ある日、アナタの元に石油王の結婚スクープが届けられます。石油王の結婚相手はきっと生涯お金に不自由しない生活を送ることができるでしょう。
問題は石油王の結婚相手です。もしも、結婚相手が超大金持ちのご令嬢だったらどうでしょうか? 嫉妬しないのではないでしょうか。「へー、そうなんだ」と、興味すら湧かないかもしれません。
一方で、石油王の結婚相手がアナタと同じ中流階級出身者だった場合はどうでしょうか? おそらく先ほどのケースよりも嫉妬する人は多くなると思いますし、結婚相手は連日週刊誌に追いかけられてしまうでしょう。「石油王の結婚相手としてふさわしくない!」なんてネガティブな面が強調される記事になりそうです。
身分が高い人同士の結婚は雲の上の人たちの話として処理できるのに、自分と同じ属性だったり身近な存在の人の場合だと嫉妬の対象になってしまうのです。
特に後者の場合、今日だとSNSなどで「あんな人のどこか良いの? 悪趣味よ」と石油王を批判する投稿がなされたり、「絶対お金目的! 性格わるっ!」などと結婚相手を誹謗中傷する投稿が放り込まれることになるでしょう。
ここで注意してほしいことがあります。実は、このような投稿をする行為の土台にあるのは嫉妬ではなく、「認知的不協和によるモヤモヤ」です。認知的不協和とは、ざっくりと説明するならば「現実に対して異なる認知を抱えてしまうことにより生じる不快感」を指します。
そしてこの認知的不協和によるモヤモヤは、自らの行動や態度を変容させることで解消します。代表的な例が「喫煙」です。喫煙者の多くは、タバコが体に悪いことを理解して喫煙していると思います。このままだとモヤモヤしたままですが、彼らは「でもこれで仕事がはかどる(正当化)」「別に体に悪くない(害の否定)」と考えることで不協和を解消し、タバコを吸い続けるわけです。
石油王のケースでいえば、手に入れられないと理解した瞬間に「元々石油王なんて嫌いだった」「石油王との結婚なんて不幸そう」と認知を変更して諦めることを正当化し、変更した認知をベースに悪い想像を悪性腫瘍的に大きく膨らませて相手を貶めるようになります。これは認知を変更して相手を攻撃しているため、土台となる感情は嫉妬ではなくなっています。そうなっていないか、自分の状態に注意を払う必要があります。
「負けて悔しい気持ち」は成長するための〝心の燃料〟
さて、冒頭の編集さんの場合は、根底に「もっと自分は評価されるべきだ」があり、すでに評価されている人たちに焦りを感じているということでした。
しかし、これは良い兆候です。なぜなら、嫉妬している自分を受け止められるようになれば、嫉妬心が自身を向上させる〝心の燃料〟としてポジティブに機能してくれるのです。嫉妬心を上手く利用すれば、「自分はどうすれば彼らのようになれるのだろうか」と考える良いきっかけに繋げることができるようになります。
負けると悔しい。でも、どうやったら自分は評価されるのか? 冷静に分析するには、正しい自己分析も必須です。その過程では自分の劣っている部分を直視しなければならない場面も出てくると思いますが、その先で嫉妬している相手の実力を認められるようになれば、人間的に成長できると思います。
人間は多面的に構成されていますが、どうしても私たちは一面だけを見て分かった気になってジャッジを下してしまいます。そのせいで、自分の評価と周囲の評価にズレが生まれてモヤモヤしてしまうこともあるのです。
編集さんはおそらく、まだまだやりたいことがたくさんあり、自分の可能性を探したいのでしょう。今、心に湧いている感情を、〝まだ心が成長したがっている証〟ととらえて、優しく受け止めてあげてください。
輝かしい活動をする人を見る機会が増えた昨今。嫉妬する機会が多いということは、ポジティブに考えれば「成長するきっかけが目の前にたくさんある」と捉えることもできるだろう。
犯罪学教室のかなえ先生
元少年院の先生で、犯罪心理学や教育犯罪学の知見からニュースなどを解説するVTuber。近著に『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』。
©夢乃とわ SDイラスト/紀羅わたり
※「教えてかなえ先生」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME5月号に掲載されたものです。
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文/千葉康永(DIME編集室、本書担当編集)