■連載/石野純也のガチレビュー
KDDIとソフトバンクは、災害時や通信障害時に切り替えて利用できる「副回線サービス」を開始した。両社がお互いに回線を貸し借りし合い、KDDIはソフトバンクの、ソフトバンクはKDDIのSIMカードやeSIMを利用する。ユーザーがeSIMを含めたデュアルSIMの端末に副回線をセットしておけば、いざという時に予備の回線を使って通信することができる。
同サービスの開発は、2022年7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、急ピッチで進められてきた。総務省では緊急時の事業者間ローミングを実現する動きもあるが、より短期間で簡易的に導入できる手段として、デュアルSIMの活用に白羽の矢が立った格好だ。両社とも、ドコモとも協議をしているというが、現時点ではサービスを契約できるのは、au、UQ mobileかソフトバンクのユーザーに限定される。
KDDIとソフトバンクは、お互いの回線をもしもの備えとして契約できる副回線サービスを開始した
“通信の保険”として導入されただけに、料金はかかる。KDDI、ソフトバンクともに、料金は月額429円。他社の回線を利用しているが、通常のオプションサービスと同様、利用料は普段契約しているキャリアから一括で請求される。他社回線ではあるが、ワンストップサービスを実現したというわけだ。緊急時の通信手段として注目を集めていた副回線サービスだが、実際の使い勝手はどうか。KDDIでソフトバンクの副回線を契約して、使ってみた。
ワンストップで契約は簡単、SIMの種類には要注意
副回線サービスは他社回線を利用しているが、契約や料金の支払いがワンストップになることを特徴にしている。実際、筆者が直接契約したのはKDDIで、申し込みの手続きなどはすべてKDDI側のサイトで行った。ここでかかる料金も、KDDIで確認することが可能だ。わざわざソフトバンクショップに行ったり、my SoftBankのアカウントを作ったりする必要は一切ない。バラバラに2社の回線を契約するのと比べると、管理の手間がかからないと言えるだろう。
KDDIの場合、副回線サービスは専用サイトから申し込む
筆者のケースではあくまで提供主体はKDDIになるため、本人確認も簡素化されている。もう1回線契約している事実には変わりがないため、さすがに氏名や住所などの入力は必要だったものの、免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類の提出は不要。au IDでログインしたあと、画面上に入力をしていくだけで契約が完了した。Apple Watchでセルラー契約をしたことがあるユーザーなら、あれに近い手続きと言えばわかりやすいだろう。
契約者情報の入力は必要だったが、本人確認書類は求められなかった
KDDIは手持ちの端末に合わせて、物理SIMかeSIMプロファイルのどちらかを発行している。eSIMに対応したiPhoneの場合は、後者になる。筆者が今回選択したのも、eSIMだ。シングルSIMの端末で物理SIMしか刺さらない場合などは、そちらを選択することもできる。ただし、コンシューマー向けに物理SIMの副回線を提供しているのはKDDIのみ。ソフトバンクは、選択肢がeSIMに限定される。そのため、iPhoneやPixelなどのeSIM対応端末を持っていない場合は、利用自体ができない。提供しているSIMの種類がキャリアごとに異なる点には、注意が必要だ。
KDDIはソフトバンクの物理SIMとeSIMの両方を提供する。逆にソフトバンクはeSIMのみだ。ただし、KDDIの場合もiPhoneを選ぶとeSIM限定になる
KDDIは現時点でオンライン限定、ソフトバンクはソフトバンクショップ限定と、キャリアによって販路が分かれている。正直なところ、オンラインで申し込めるようであれば、MVNOなど、別の選択肢も出てくるため、そうした手続きが苦手な人のためにも、ぜひショップでの取り扱いも行ってほしい。その方が、副回線サービスの提供目的にも沿うはずだ。
逆に、eSIMプロファイルを発行するプロセスにも改善が必要だ。筆者はKDDIに申し込んだため、オンラインでの申し込みになったが、設定のためのQRコードが紙に印刷され、段ボールで自宅に届いた。eSIMの魅力は、いつでもどこでも端末にインストールできるところにある。QRコードや設定のためのアドレスは紙に書いてある必要がなく、メールで事足りてしまう。郵送を待つ必要もあるため、ここはぜひオンライン化を進めてほしい。
手続きはWebで完結したが、QRコードが書かれた紙は宅配便で送られてきた。ここはデジタル化が必要だ