養殖ワタリガニ
大分県豊後高田市で今年度からワタリガニの養殖プロジェクトが始まった。瀬戸内海に面し豊富な漁場を擁する豊後高田市では、地域団体商標(地域ブランド)として「岬ガザミ」というワタリガニを登録している。地元のほか、大阪の泉州地域などに出荷され愛される逸品だ。
しかし近年、海洋環境の変化により2004年には約66tであった漁獲量は2020年には約24tと3分の1近くにまで減少。そこで地元漁業関係者や市役所職員により岬ガザミの保護プロジェクトが立ち上がったのだ。メンバーのひとりでもある豊後高田市水産・地域産業課の野崎優さんが同プロジェクトを説明する。
「ワタリガニは共食いするため養殖の前例はほとんどなく、我々も手探り状態です。まずは市内にある旧車エビ養殖場を使い稚ガニを育てるとともに、上海ガニの養殖を参考に個室で育成する方法を試しています。今年度は4万匹の稚ガニからスタートしましたが、来年度は10万匹からスタートし、順調に進めば1年ほどで1万匹、漁獲量で5tほどと年間水揚げ量が約20%増える見込み。味や大きさなど課題もありますが、ブランド存続に希望が見えてきました」
前例が少ないワタリガニの養殖に乗り出したのが企業や研究機関ではなく、漁協を中心とした小規模な団体なのはおもしろい。地元産業の活性化につながるので応援したい。
岬ガザミ(ワタリガニ)は、ほかのカニと同様に茹でたり蒸したりして食べるのが一般的。オスの旬は8~10月、メスの旬は11~12月頃。
旧香々地町地域で水揚げされるワタリガニのみ「岬ガザミ」の呼称が使用可能。「水揚げ」は養殖も含むため、ブランドの存続が可能。
ワタリガニは共食いする習性があるため個室ケースでの養殖が有効とされる。この個室は「カニハウス」と呼ばれ、現在は4万匹から選ばれた72匹のみが試験的に飼育されている。
取材・文/峯 亮佑