性行為後の抗菌薬服用で性感染症リスクが低下
性行為の後に抗菌薬を服用することで、ゲイやバイセクシュアルの男性などの高リスク者での性感染症(STI、またはSTD)リスクが低下することが、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部教授のAnne Luetkemeyer氏らが実施した臨床試験で示された。詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」2023年4月6日号に掲載された。
米国では、減少傾向にあった細菌によるSTIがこの10年間では増加に転じ、新型コロナウイルス感染症パンデミックに伴う行動制限が始まった2020年にも増加し続けた。
米疾病対策センター(CDC)によると、同年に淋菌感染症、クラミジア感染症、梅毒に罹患した米国人の数は240万人に上るという。また、この傾向は人口学的背景に関わりなく認められるものの、特に男性間性交渉者(MSM)での増加が顕著とのことだ。
今回報告された臨床試験は、STIリスクが特に高いMSMとトランスジェンダー女性501人を対象に実施された。これらの参加者は、HIVに感染しているか(HIVコホート、174人)、感染予防のために抗HIV薬を使用しており〔曝露前予防(PrEP)コホート、327人〕、過去1年間に淋菌感染症、クラミジア感染症、梅毒のいずれかの診断を受けていた。
Luetkemeyer氏らは、参加者の約3分の2を避妊具なしでの性行為から72時間以内にドキシサイクリン200mgを使用する群(以下、ドキシサイクリン曝露後予防投与群)、残る約3分の1を通常の医療ケアのみを受ける群(以下、通常ケア群)にランダムに割り付けた。
その上で、試験期間中に、全ての参加者に対して3カ月ごとにSTIの検査を行った。
その結果、中央値270日(四分位範囲104~371日)に及ぶ追跡期間中に実施された3カ月ごとの検査での淋菌感染症、クラミジア感染症、梅毒のいずれかのSTIの発生率は、通常ケア群の約30%(PrEPコホート31.9%、HIVコホート30.5%)に対して、ドキシサイクリン曝露後予防投与群では約11%(PrEPコホート10.7%、HIVコホート11.8%)であり、ドキシサイクリン曝露後予防投与群ではこれらのSTDリスクが約60%低下することが示された〔相対リスク(RR)はPrEPコホートで0.34、HIVコホートで0.38〕。
また、ドキシサイクリンの曝露後予防投与の有効性はクラミジア感染症と梅毒に対して最も高く、通常ケア群と比べたこれらのSTIリスクは、ドキシサイクリン曝露後予防投与群のうちPrEPコホートで約90%(RRはクラミジア感染症で0.12、梅毒で0.13)、HIVコホートでは70%以上低下していた(RRはクラミジア感染症で0.26、梅毒で0.23)。
一方、淋菌感染症に対する予防効果はそこまで高くはなかったが、それでも55%程度のリスク低下が認められた(RRはPrEPコホートで0.45、HIVコホートで0.43)。
以上のように、性行為後のドキシサイクリン服用のベネフィットは明らかであるとの判断から、同試験は早期終了となった。
Luetkemeyer氏は、STIの予防ではこれまでコンドームに頼ろうとしてきたものの、うまく機能していないことを指摘し、「こうした感染症を予防するツールが増えることは喜ばしいことだ」とコメント。
ただ、いずれのSTI予防策も完璧ではなく、コンドームの使用や頻回なSTI検査、性感染症の一つであるB型肝炎ワクチンの接種など複数の対策を組み合わせるべきだと強調している。
また、今回報告された臨床試験は細菌性のSTIに罹患するリスクが高い特定の集団を対象に実施されており、「誰もが避妊具なしでの性行為の後にドキシサイクリンを服用すべきであることを示した試験結果ではない」と注意を促している。
さらに、抗菌薬の使用が広がることで、ドキシサイクリンや同クラスに分類される抗菌薬に対する細菌の耐性が強まる可能性があることも懸念される。
今回の臨床試験には関与していない、米エモリー大学の感染症専門家であるColleen Kelley氏によると、今のところドキシサイクリンに対して耐性を示す梅毒トレポネーマあるいはクラミジアの報告はないが、一部の淋菌株で同薬に耐性を獲得したものが見つかっているという。
そのため、同氏は、「淋菌感染症の予防では、ドキシサイクリンの曝露後予防投与の効果が徐々に低下していく可能性がある」との見方を示している。(HealthDay News 2023年4月6日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2211934
Press Release
https://www.ucsf.edu/news/2022/05/422911/doxycycline-after-unprotected-sex-significantly-reduced-stis
構成/DIME編集部