32カ国で生産された個性豊かな旬のコーヒーを、39カ国・地域に流通させるTYPICA。世界に注目される日本発のスタートアップは、業界に根強く残る課題を、どのように解決するのか?
ポイント深堀り
新規事業、スタートアップを取材していると、「なぜ、このビジネスが今まで存在しなかったのか?」と考えさせられる。TYPICAは、その最たるもののひとつだ。
コーヒーは石油に次ぐ国際取引商品とされ、同社によれば世界の市場規模は50〜100兆円。生豆の価格は先物取引市場で決められており、投機目的の売買によって、価格が乱高下することもある。生産者の収入は不安定で、大半を占める小規模生産者は、流通に関与する商社や焙煎業者に比して立場が弱く、多くが貧困に苦しんでいるという。
コーヒー生産の持続可能性は、世界の大きな課題だ。
TYPICAは、「UberやAirbnbを参考にした」というマーケットプレイスによって、解決策を提案する。自社でサプライチェーンやプロダクトを持たず、売り手/買い手が出会える場を用意し、取引を管理することで手数料を収益にする(流通額の15〜35%)モデル。自動車や住まいのシェアが定着しているように、同様のモデル自体は珍しくないが、コーヒーの業界では実現していなかった。
古い流通の慣習や既得権益を業界自身が手放すのは難しい。ときに大きな問題があっても、解決可能な課題だとは認識されず、放置されてしまう。さまざまなスタートアップを見る限り、こうした問題、裏返せばチャンスは、あらゆる業界に残されているようだ。
TYPICAは、長い間に複雑化していた流通を、生産者=ロースターのシンプルな関係に戻した。
DXによって、1カ国1コンテナから、混載による輸送を可能にしたことで、生産者は小ロットで出荷できる。ロースターは、これまではブレンドされて個性を失い流通していた、多様なコーヒーを入手できる。
さらに同社が自身を、スペシャルティコーヒー(生産者が明確で高品質なコーヒー)の「コミュニティ」と定義していることに注目したい。
ロースターは生活者にスペシャルティコーヒーの魅力を伝え、生産者を買い支える役割を持つ。生産者はロースターからのフィードバックを受けて、さらにおいしいコーヒーづくりに取り組み、生活を豊かにしていく。その様子を見た他の生産者が、コーヒーづくりへ情熱をそそぎ、品質を高めてTYPICAに参加。地域の経済をも向上し、世界にスペシャルティコーヒーの文化が広がっていく−−そんな循環を作り上げるのが、同社のビジョンだ。
世界中のコーヒーを愛する人たちをつなぎ、コミュニケーションを活発にするコミュニティ運営が、今後の成長のカギになる。現在、ロースターが生産地を訪れ生産現場を知るオリジナルツアー「TYPICA Lab」、反対に生産者が消費国に一堂に介し、ロースターやコーヒーラバーがプレゼンテーションする「TYPICA Annual Meeting」など、交流が活性化する仕組みづくりにも力を入れている。また、小規模生産者の生産量と品質を一貫して高めるための設備投資などを加速させる新たな保証金システムの仕組みも整えつつある。
買い手であるロースターからの引き合いは想定以上に潤沢で、TYPICA内での流通額は2022年までの実績で10億円、2023年の予測は30億円。将来的には、2兆円の生豆市場のうち、およそ20%に相当する4000億円程度(流通額ベース)のポテンシャルを見込んでいる。
取材・文/ソルバ!
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