「寝技」は、もともと柔道やレスリングなどの格闘技における技の一種を表す言葉だが、ビジネスシーンではまったく違った意味で使われる。ビジネス用語の「寝技」は、主に年配の方を中心に使われる傾向にある表現であるため、若い世代の中には意味を知らない方もいるかもしれない。
そこで本記事では、ビジネス用語として使われる「寝技」の意味と使い方を解説する。この機会に正しい意味を理解しておこう。
ビジネスにおける「寝技」の意味と由来
寝技の読み方は「ねわざ」。まずは、ビジネス用語としての「寝技」の意味を確認していこう。
寝技は営業の際の「裏工作」を表す
ビジネス用語として使われる「寝技」には、「交渉」や「裏工作」といった意味がある。正面から戦っても勝ち目がないと判断した場合に、戦略を立てて事前に仕掛けることを表す言葉だ。
ちなみに、政治の世界では、裏工作が上手い政治家に対して「寝技師」という表現が使われることがある。また、「わざ」の漢字を「業」に変えて「寝業師」と記す場合もあるが、いずれも同じ意味を持つ。
由来
ビジネス用語の「寝技」は、柔道に由来する比喩表現。柔道の技には、背負い投げに代表される「立技」と、押さえ込み技に代表される「寝技」の大きく分けて2種類がある。
寝技は、対戦相手を押さえ込んだり、関節や脈をゆっくりと時間をかけて締めたりしながら相手が降参するのを待つ技であり、立技よりも粘り強さが求められる。また、格闘技には不利とされる体格の小さな選手に向いた戦術ともいわれる。この寝技の特徴をビジネスの交渉のスタイルに例えて使われるようになったとされている。
類語と対義語
正式な交渉や話し合いに先立って、関係者の合意を得るための下工作を行うことを指す「根回し」は、「寝技」の類語表現といえる。一方、寝技と直接的に対義語関係にある言葉はない。事前に裏工作をしないことを表現したい場合は、「下準備なしで」などの言葉を使うことで「寝技」と真逆のニュアンスを出せるだろう。
寝技の使い方
寝技は、比較的にネガティブなニュアンスを含んだ文脈で使用されることが多い。
【例文】
「A社に真っ向勝負をしても到底叶わないので、寝技に持ち込むことにした」
「彼の交渉力は素晴らしく、〇〇党の寝技師と言われている」
営業における寝技の種類
ここでは、営業の世界で実際に行われる寝技について見ていこう。
接待をする
接待は、相手との良好な関係を築くことを目的として商談外で行われる会食やゴルフなどを指す。リラックスした雰囲気の中で距離感を縮めていくことで、交渉事で相手からの「イエス」をもらいやすい状況に持っていく営業方法で、取引先が多い商社や代理店などでよく見られる。
泣き落とし
ビジネスにおける泣き落としとは、相手の情に漬け込むことを意味する。具体的には、商談を断り続けられても通い詰めることで、その心意気を買ってもらったり、自社や自身の状況を理解してくれと懇願したりといったものだ。感情のある人間同士だからこそ通用する戦略だが、強要罪などの法に触れる可能性もあり、好ましくない方法とされている。
相手の弱みに漬け込む
営業で相手の弱みに漬け込むことも正攻法ではない営業方法の一つだ。例えば、以前の取引内容などについて言及し、相手が断りづらくする方法などが見られる。
寝技の英語表現
裏工作を表す「寝技」の直接的な英語表現は存在しないが、「表立って行わない」「根回し」の意味を表す場合は“arrange”や“lay the ground”などの単語を使うのが一般的。また、「裏でこっそり」という意味を表すは“behind the scene”“off the record”と、「事前に」の意味を持つ“in advance”や“beforehand”などを一緒に使うと、「寝技」に近いニュアンスが出せる。
【例文】
He got a big contract by laying the ground in advance.
(彼は根回しをして大きな契約を獲得した)
政治の話題で使用する場合は、「ロビー活動をする」を表す動詞の“lobby”や“lobby”を名詞化した“lobbying”が使える。
【例文】
That politician won the election by lobbying.
(その政治家はロビー活動をして選挙に勝利した)
文/編集部