飼育環境や餌などにこだわる農家が生産した「おいしい豚肉」を一般消費者に販売
本物の肉のおいしさ、食肉文化を次世代につなげたいと、今年4月から豚肉流通事業を開始。自社ECサイトでは、日本全国80の生産者との養豚DX取引を活かし、北海道から鹿児島まで、こだわりを持って育てられている全国のおいしい豚肉を届ける。
第一弾は、米どころで有名な新潟県魚沼にある「鬼や福ふく」が生産する「鬼の宝ポーク」。豊富な雪解け水によるおいしい水で育てられた豚は、旨味と甘みが非常に強いのが特徴。
「鬼や福ふく」では飼料に食品残渣を使った循環型農業や、フリーストールで飼育してストレスを減らすアニマルウェルフェアにも取り組んでいる。
「養豚はわずか1㎏で生まれた豚を半年で120㎏まで育てるボディビルの産業。日本では年間18億トンほど生産されますが、生産者が非常に少ないのが現状です。『鬼や福ふく』の場合だと、一人当たり750頭の豚を飼育しなければいけない。こうした状態では一頭一頭の個別ケアは難しいですが、テクノロジーを使うことで豚の状況に応じて餌や環境を整えることができるので、健康的な生育や飼料の削減にもつながります。
今スーパーに並んでいる豚肉は、国産か外国産の違いしかないですが、本来の豚肉は生産者によって食感や味わいに違いがあります。
豚肉は2034年で関税が撤廃され、日本の養豚農家は今後味で勝負していかないといけない時代になります。また、今年1月には26年ぶりに養豚枝肉格付規格が改定され、おいしさの目安と言われるオレイン酸の検査が開始、価格に反映されることになりました。
こうしたことは一般の消費者にはまったく伝わっていないし、おいしさが伝わらなければ日本の養豚はますます衰退していってしまいます。豚肉の本来のおいしさという価値をしっかりと伝えるため、フードディレクターに田村浩二さんを起用しました。
Eco-Porkは地域ごとの違いを感じながら食べていただきたい豚肉です。さらにブランド化することで、農家の収益力や価格競争力を上げて、今後もおいしい豚肉を残していくことに貢献したいと考えています」(神林氏)
東京とフランスでのフレンチ星付きレストランでの経験を経て、現在は「Mr. CHEESECAKE」など多分野で活躍している田村浩二氏がEco-Porkのフードディレクターに就任。ECサイトの豚肉・加工品・ミールキットの監修、養豚場でどのような餌をどのような形で与えたらいいのかなど、『おいしい豚生産メソッド』の研究を担う。
「シェフ時代からサステナブルシーフードの活動を行っており、料理をする立場として、食材がどのような環境にあるのか関心がありました。
日本の水産業は危機的状況にありますが、生活者にはそうした状況が知られていません。Eco-Porkさんから豚肉でも同じような状況が起こりうると聞き、テクノロジーの力を使って養豚を支えることに、自分の経験が活かせる思い引き受けさせていただきました。
レストランでは豚肉は高級感を感じない食材とみられています。Eco-Porkさんとの仕事を始めていろいろな豚肉をいただきましたが、それぞれに味わいの違いがあり、旨味、甘みがクリアに感じて非常においしく、特にユーグレナポークは脂に甘みを感じます。
素晴らしい豚肉が日本にもあると知り、豚の飼育環境を変えることで肉自体がおいしくなることもわかり、ブランド和牛のように豚肉でもブランド豚が生まれる可能性が十分にあると思います」(田村氏)
【AJの読み】育つ環境や飼料でこんなにも味が変わる!
発表会では「鬼の宝ポーク」を使った、田村氏考案の「香味出汁豚しゃぶ」が振舞われた。
「ぶたしゃぶは豚肉のおいしさをストレートにシンプルに味わえる料理。豚の味わいは脂によって変わってくるため、最後までおいしく味わえるように設計して出汁を作っています。豚肉は少しピンク色が残るぐらいで食べるとやわらかさと甘みが味わえます」(田村氏)
出汁は日本三大銘水の一つ「養老の滝水」を使用。瀬戸内海産の伊吹いりこ、礼文島の利尻昆布、「手火山式」いぶし製法で作られた花かつおの他、しょっつるや花椒を使うことで豚の脂を軽くするような味わいと香りに仕立てている。
スープだけでもしっかりと味がある。田村氏いわく日本酒と割った「出汁割り」もおいしいとのこと。豚肉はロース肉とバラ肉の2種類でそれぞれ1mmにスライスされているので、さっと出汁にくぐらせる程度で。
Eco-Porkでは各生産者の豚肉の成分検査を実施し、味わいをレーダーチャートで表示。「鬼や福ふく」は旨味が顕著に出ている。最初は何もつけずにいただくが、バラ肉でも脂ぽさがまったくなく、噛むごとに旨味がじわりと広がっていく。
塩、柚子胡椒、ポン酢と薬味のいずれも相性が良いが、個人的には柚子胡椒が好みだった。
しゃぶしゃぶが終わった後の出汁は豚肉の旨味も出てこれまた非常に美味。花椒でエスニックな風味もあることから、出汁を使ったフォーがおすすめの〆だとか。
現在ECサイトでは、精肉と、ドイツ人職人「バルドゥーン」によるドイツ伝統製法で完全無添加のシャルキュトリを販売。今後は「香味出汁豚しゃぶ」をはじめ、田村氏が監修したミールキットも随時ラインナップに加わっていくとのこと。
文/阿部純子