■連載/阿部純子のトレンド探検隊
全国の養豚農家に「養豚DX」を推進している「Eco-Pork」は、ICT・IoT・AIを活用して生育環境や衛生状態などを適切に管理することで、環境負荷の少ない健康的な豚の生育を効率的に実現する、持続可能な養豚業を目指している。
4月から一般消費者向けに自社ECサイトで、DXシステムで育てられたおいしい豚肉の販売を開始することになり、同社代表の神林隆氏とフードディレクターに就任した田村浩二氏が取り組みについて語った。
ICT・IoT・AIを用いた「養豚DX」とは
養豚の市場規模は世界で40兆円、国内で6000億円と、豚肉は世界で最も大きな一次産業だが、養豚には国内外で大きな課題がある。
国内の課題としては、2000年以降70%が廃業している養豚農家数の激減が挙げられる。グローバルでは、爆発的な人口増加により需要と供給のバランスが崩れる「たんぱく質危機」がある。昆虫食も話題になっているが、「肉」としては代替肉、細胞培養肉の増加が予想され、アメリカの経営コンサルティング会社「A.T Kearny」の予測では、2040年には畜肉(動物由来の従来の肉)の割合は40%まで減少するとされている。
「多くの人が食べている豚肉の生産者が日本で激減していることや、世界的な人口増加で今後豚肉を食べることができる量が減り、価格も39%上昇すると言われていることなど、生活者にはあまり知られていません。
また、食肉の抱えるSDGs課題もあります。豚肉自体がサステナブルな問題に向き合わなければいけない業界で、現在の畜産業は環境負荷が高く、食肉文化の持続可能性は低いと言わざるを得ません。
日本の畜産業が無くなる可能性が迫っているのではないかと危機感を覚えて、未来の世代に食肉文化を残すために会社を立ち上げました。ICT、IoT、をAI用いた生産管理を実現させる『養豚DX技術』を開発、テクノロジーで生産量と環境負荷を改善して、養豚農家の活性化に取り組んでいます」(神林氏)
Eco-PorkはCO2、水、飼料など環境負荷の課題を抱える養豚において、養豚経営支援システム「AI Farm Manager Porker」や、豚の体重を一括測定できる「ABC(AI Buta/Biological Camera)」といった養豚DXソリューションで 養豚の生産性向上と環境負荷低減に取り組んでいる。
ABCは動きまわる豚を3Dカメラ内蔵のロボットが自動で豚を個体毎に全身3D測定し、960カ所の特徴量を取得する。体重、姿勢、行動などのデータをもとにAIが生育状態などの体調を把握することで、豚の体調に応じた餌の管理を行う。
同社の養豚DXは年間180万頭分の農家と契約し、国内導入率は約10%。適切な生産管理ができることで、このテクノロジーを導入した畜産農家は平均年率7%生産量が増加している。
今回新たに、ユーグレナとのパートナーシップのもと、59種類の栄養素を含むスーパーフードの「ユーグレナ」を給餌することで、持続可能性への配慮とおいしさを兼ね備えた豚肉「ユーグレナEco-Pork」を世界で初めて生産。
餌に入っているユーグレナは、製造過程の中で一定量発生する廃棄に回していた粉末を使用。豚を健康にするだけでなく、廃棄ロスも削減する。
「漢字の『家』には『豕(=ぶた)』が含まれているように、家で残った食べ物や、使えない牧草などを餌に与えることで、肉にもなり、排泄物は肥料にもなる循環型のサイクルを本来は持っていました。そうした世界を作っていくという我々のミッションとユーグレナさんの理念が一致して、『人と地球』だけでなく『人と地球と豚を幸せにしていく』ためにパートナーシップを組みました。
ユーグレナEco-Porkは透き通るような脂肪と、健康に育った豚ならではの、豚特有の臭みが少ないことが特徴です」(神林氏)