少量の飲酒による健康上のメリットに疑問符
これまで、数々の研究の結果から、毎日グラス1杯程度のアルコールが、心臓病の発症や全死亡のリスクを低下させる可能性があると言われてきた。
しかし、それらの研究には瑕疵があり、その点を考慮して解析すると、少量のアルコール摂取の健康上のメリットは失われるという。
ビクトリア大学(カナダ)のTim Stockwell氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、詳細は、「JAMA Network Open」に2023年3月31日掲載された。
同氏らによると、1日に1~2杯のアルコールは健康に良い影響も悪い影響もなく、3杯以上では早期死亡のリスクが有意に増加する可能性があるという。
なお、米国立衛生研究所(NIH)によると、同国の一般的なアルコール飲料1杯には約14gの純アルコールが含まれていて、飲料のサイズとしてはビールなら約12オンス(355mL)、ワインなら約5オンス(148mL)、蒸留酒なら約1.5オンス(44mL)がこれに相当する。
この研究のためにStockwell氏らは、飲酒と死亡リスクとの関連について、過去に多くの国々で実施された107件の研究をメタ解析の対象とした。
研究参加者数の合計は約500万人に及ぶ。Stockwell氏は、「それらの研究には質の低い研究が多く含まれていた」と評している。
例えば、多くの研究で、元飲酒者と過去に飲酒したことがない人を一律に「非飲酒者」としてまとめた上で、統計解析をしていた。
しかし、「元飲酒者は通常、健康上の問題が発生したために飲酒の継続を断念した人たちだ」とStockwell氏は語る。実際、今回の研究で、元飲酒者の全死亡リスクは飲酒したことがない人よりも2割以上高いことが示された。
今回の研究では、過去に飲酒したことがない人を基準とした場合と、時々飲む人(1日換算で1.3g未満)を基準とした場合との双方で、他群の全死亡リスクを比較するといった手法により、そのような「元飲酒バイアス」などの問題をできるだけ取り除いた解析を行った。
死亡リスクに影響を及ぼし得る交絡因子を調整した解析の結果、過去に飲酒したことがない人に比べれば、時々しか飲まない人も、少量の飲酒者(1日に1.3~24g)も、全死亡リスクの有意な低下は認められなかった。
その一方、1日25~44gのアルコールを飲む人は、非有意ながら全死亡リスクがやや高く、1日に45g以上飲む人はリスクが有意に高かった。
特に65g以上飲む人では、飲酒したことがない人より35%、時々飲む人より41%、有意にハイリスクだった。
この結果について、米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のCatherine Lesko氏は、「少量の飲酒は有益とは言えず、中程度以上の飲酒が有害であることを強調するもの」と論評している。
今回の研究からは、女性はより少量の飲酒で死亡リスクが上昇することも示された。例えば1日65g以上飲む女性は飲酒したことがない人より全死亡リスクが61%高く、飲酒の影響は男性(同様の比較で34%のリスク上昇)のほぼ2倍だった。
この点について、物質依存症の問題解決のための非営利団体で一般向けコンテンツを開発しているPat Aussem氏は、「女性は男性と同じ量のアルコールを飲んでも、血中濃度が高くなりやすく、酔いが早く代謝にも時間がかかる」と解説している。
Aussem氏によると、これまでの研究から、飲酒の弊害は以下のようにまとめられるという。週に2杯以下であれば、アルコールの影響は生じにくい。
週に3~6杯では、乳がんや大腸がんを含む、いくつかのタイプのがんのリスクが高まる。週に7杯以上では、心臓病や脳卒中のリスクが大幅に上昇する。「簡単に言えば、少なければ少ないほど良いということだ」と同氏は述べている。
なお、今回の研究について著者らは、解析対象とした大半の報告で飲酒量が自己申告に基づいて評価されていたことを、研究の限界点として挙げている。
自己申告による飲酒量は通常、過少評価になるという。また、飲酒と健康に関する今後の研究では、疾患罹患後に禁酒した人が含まれる「現在飲まない人」を基準とするのではなく、時々飲んでいる人を基準として検討すべきではないかと提案している。(HealthDay News 2023年3月31日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2802963
構成/DIME編集部