ずっと景気拡大が続くことはない。来年には景気後退局面が訪れそうだが、景気の後退の仕方にもいろいろある。来年にはどのようになるのだろうか。
金融緩和でインフレに
米国では、新型コロナウィルス感染症拡大直後から続いた大規模な金融緩和により、2020年実質GDP成長率(年率)は前年比▲3.4%から2021年は5.7%、2022年2%、2023年1.4%(予測)とプラスに転じた。大規模な金融緩和は市場にお金が流れ、物価が上昇。特にユーロ圏、米国では10%近くまで物価が上昇した。
各国物価上昇率の目標を2%としている。
2%の物価上昇は、商品への価格転嫁が行われれば企業の売上増につながり、さらにそこで働く従業員の給与も上がることにつながるため、世界の中央銀行で目標とされている数字だ。ゆるやかに物価が上昇すれば上がる前に買おうと購買意欲も上がり、賃金もそれに伴い上がることでも購買意欲が上がり、良い景気循環が生まれる。
一方で、極端に物の価格が上がってしまうと、給与の上昇が追い付かず生活を圧迫する。例えば物価が10%上がれば、食費に毎月10万円かかる家庭は年間12万円食費が増え生活を圧迫するし、300万円の車は330万円となるため今買わない方がよいと買い控えが起こるかもしれない。
そこで、米国、ユーロにおいてコロナ禍で行われた大規模緩和を改め、利上げ等で金融引き締めを行っている。
これにより、一時10%近くまで上がった物価は3月に入って5%まで下がってきた。それでもまだ高いため、年内にまだ利上げをする可能性がある。
金利を引き上げると、お金を借りるときの金利が上がるため、その分借入れが減り大きな買い物ができなくなるため、物価が落ち着いてくる。
ソフトランディング? ハードランディング?
利上げのような金融引締めは、2%を大幅に超えるインフレを抑えることができるが、その分景気を冷やしてしまう。大きなものが買いにくくなり、低金利でお金を借りて投資するということができにくくなるからだ。
米国は、2022年から4.5%の利上げをしており、インフレはある程度抑えられたものの、この利上げにより景気後退は避けられない。
その景気後退の形式として、以下の様子を表す言葉がある。
ランディングとは、飛行機が着陸することを指すが、利上げにより景気後退となったときに、景気がどのような着地点となるかを表す。
・ノーランディング
利上げをしても失業率等が悪化せず、緩やかな経済成長が続く。
・ソフトランディング
利上げをしても大幅な失業率の悪化等を招かず、緩やかな景気が減速し、物価が落ち着き、その後は緩やかな利下げで済む。
・ハードランディング
リーマンショックのような大きな危機が起き株式市場が混乱、失業率が大幅に悪化、金融機関が破綻するなどの大幅に景気が悪化してしまう。再度大幅な金融緩和が必要になる状態になる。
日本への影響は?
日本は10%近くになるような物価上昇は起きておらず、日本銀行が大幅な利上げをすることはないと考えられる。
米国が利上げにより景気が悪化すれば、利下げに転じるだろう。今は米国金利が高く、低金利の円を借りてドルに転換する流れで、ドルが高くなる円安だ。一方で、米国景気が悪化し、今の利上げを改めて利下げとなればドルと円との金利差がなくなると、ドルを売って円を買う逆回転が起こり、円高となる。円高は輸出で稼いでいる日本企業は円ベースでの企業業績が悪化し、また円が高くなればその分日本企業の製品は海外で高くなってしまうため売れづらくなる。
こう考えると、日本の景気は米国しだいになりそうだ。米国が利下げに転じる予兆となるのは、物価が2%近くで落ち着いたうえで、住宅と雇用がカギとなりそうだ。
(参考)
世界経済見通し 2023年1月 改訂見通し (imf.org)
2022年10月 世界経済見通し(WEO) (imf.org)
世界経済見通し 2021年10月 (imf.org)
文/大堀貴子