武田薬品工業(以下「武田薬品」)は、「日本橋ニューロダイバーシティプロジェクト」(以下「本プロジェクト」)の一環として、職場環境におけるニューロダイバーシティ(※1)の現状と課題を把握することを目的に、18歳から65歳の全国のオフィスワーカー2600人(※2)を対象とする調査を実施した。
この調査結果により、発達障害当事者(発達障害の診断を受けている人)またはグレーゾーン(※3)(診断はないものの、発達障害に見られる特性を持つ人)であるニューロダイバーシティ人材(※4)と、それらに該当しない周りの人たちとで、発達障害や多様性に対するさまざまな認識にギャップが存在することが判明した。
※1 脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを、多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこうという考え方
※2 内訳:発達障害の診断を受けている人100人、発達障害の診断を受けていない人2500人
※3 ADHD、ASD、LD当事者の特性を提示した設問のいずれかにおいて「よく当てはまる、または頻繁に指摘されたことがある」と回答した人の合計
※4 発達障害の診断を受けている人とグレーゾーンに該当する人
職場には発達障害の診断こそ受けていないが、認知されていない当事者がいる可能性
発達障害の診断を受けていないオフィスワーカー2500人に、発達障害に見られる傾向について経験したり指摘されたりしたことがあるか聞いたところ、125人が「よく当てはまる、または頻繁に指摘されたことがある」を選択した(5%)。
なお、発達障害の分類ごとのグレーゾーン割合は以下のとおりで、ADHD傾向は3.7%、ASD傾向は2.6%、LD傾向は1.8%が「よく当てはまる、または頻繁に指摘されたことがある」と回答している。
本調査において、診断を受けている当事者の出現率が0.8%であることから、職場には発達障害の診断こそ受けていないものの、認知されていない当事者がいる可能性が示唆された。
ニューロダイバーシティの認知度は、さまざまな多様性の中で最も低い
発達障害に見られる特性を持つ人材が活躍するための土壌となる「ニューロダイバーシティ」の考え方は、他の多様性と比べて認知度が低いことがわかった。
今回の調査対象者2600人にさまざまな多様性に関連する概念の認知・理解度を問う設問では、「男女の多様性」「性的嗜好・性自認の多様性」「人種・民族の多様性」「障害の有無」について、発達障害当事者、グレーゾーン、周りの人たちのいずれも「知らない」と答えた人は30%未満であり、やや「知らない」の割合が高かった「年齢の多様性」(9.0%、20.8%、37.2%)、「外見の多様性」(9.0%、14.4%、31.7%)でも40%を超えることはなかった。
一方で、ニューロダイバーシティについては「知らない」との回答が、発達障害当事者、グレーゾーン、周りの人たちはそれぞれ21.0%、26.4%、60.5%であり、すべてのグループにおいて、他の多様性より高い結果となっている。
このほか、ニューロダイバーシティ人材はいずれの多様性においても認知度が高い傾向も見られた。
立場を問わず6〜7割程度の人が業務に支障を感じている
発達障害による特性が仕事においてどの程度支障をきたしているか問う設問では、発達障害当事者が67.0%、グレーゾーンが56.8%、周りの人たちは67.6%が「とても支障がある」「やや支障がある」と回答。立場を問わず6〜7割程度の人が業務に支障を感じていることがわかった。
また、職場環境に対する要望を聞く設問では、発達障害当事者やグレーゾーンの人たちはいずれも「手書きの書類作成を強要しないでほしい」を除くすべての項目で、50%以上が「とても当てはまる」「当てはまる」と回答した。
なお、特性の見られなかった周りの人たちについても、「業務を指導する際には抽象的な表現は避けてほしい」「作業の合間に小休憩をはさむような仕事のサイクルを設けたい」「業務の手順や仕事内容の柔軟な調整を申し出しやすい環境が欲しい」の項目はおよそ3人に一人が、その他の項目については、「フリーアドレス性を導入してほしい」を除くすべての項目でおよそ4人に一人が「とても当てはまる」「当てはまる」を選択している。
このことから、ニューロダイバーシティ人材の多くが求めている職場環境は、一緒に働く周囲の人たちからも一定の割合で求められていることが判明した。
ニューロダイバーシティ人材と一緒に働く周りの人との間で、支障を防ぐための対応について異なる認識
業務に支障があると答えたニューロダイバーシティ人材の55.1%は、特性による支障が出ないようにするため、「自分で対処しようとしている」と回答している。
しかし、同様に支障があると回答した発達障害の特性があると感じる人と一緒に働く周りの人たちのうち、「特性・特徴のある方が自分で対処しようとしている」と答えた人はわずか9.9%であり、最も多いのは「周りの同僚や上司が特性・特徴を理解し、対応している」の46.4%、次点が「特に何も対応していない」39.6%となっている。
このことから、職場においてニューロダイバーシティ人材と周りで一緒に働く人の間に、支障への対応の状況や必要性について、認識にギャップが存在することがわかった。
■ニューロダイバーシティとは
ニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)とは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)という2つの言葉が組み合わされて生まれた、「脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で生かしていこう」という考え方。特に、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害といった発達障害において生じる現象を、能力の欠如や優劣ではなく、『人間のゲノムの自然で正常な変異』として捉える概念でもある。
■発達障害について
発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習症(学習障害、LD)、チック症、吃音などが含まれる。これらは、生まれつき脳の働き方に違いがあるという点が共通している。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害の特徴を併せ持ったりすることもある。特性により生活面や仕事面などに生きづらさを抱える方も多い一方で、彼らにある特性は何らかの特殊な能力と表裏一体である可能性が、最近の研究で示されている。
調査概要
調査対象/発達障害の診断を受けている人:100名、発達障害の診断をうけていない人:2500名
調査方法/インターネット調査
調査期間/2023年1月26日~2023年1月30日
関連情報
https://www.n-neurodiversity.jp/
構成/清水眞希