SAFの原料の確保が急務に
ユーグレナ社は、2010年より微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)由来の油脂を使ったバイオ燃料の共同研究を開始し、2018年に神奈川県横浜市に日本初のバイオ燃料製造実証プラントを竣工。2020年に次世代バイオディーゼル燃料の供給を開始し、2021年6月にバイオジェット燃料(SAF)による初フライトを実現した。
「ユーグレナ油脂がジェット燃料の原料になる可能性があるということから研究をスタートしました。紆余曲折あり、次世代バイオディーゼル燃料は製造実証プラントの初稼働から約1年半、SAFは約2年半もの歳月をかけてやっと形になりました」
2023年3月10日から3月末まで、調布飛行場のジェット燃料共同給油設備へSAF供給すると同時に、空港内地上車両への次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」の供給が行われた。
海外から輸入したSAFを供給したり、国内生産に取り組む企業はいくつか存在するものの、現在、国内生産のSAFで国際規格「ASTM D7566 Annex6規格」に適合しているのは、日本で唯一サステオだけだという。
「まだ実証実験段階のため、サステオの製造能力は年間約125キロリットルと非常に少なく、製造コストも高い。そうした事情に理解を示してくれた航空会社やバス会社、船会社など、累計70社以上の企業・団体に供給させてもらっています」
現在、その取り回しの良さからSAFの製造方法としてもっとも普及しているのが、使用済み食用油や植物油などを水素化処理することで製造する「HEFA(へファ)」という方法だ。サステオも同様に使用済み食用油を使用し、HEFAに近い方法で生産されている。原料の割合としては、使用済みの食用油が90%以上と大部分を占め、ユーグレナ油脂の割合は10%以下となっているそうだ。
「使用済み食用油は人の営みの中で生まれるものだから急激に増えることはないし、将来的にバイオ燃料の需要が増えると、供給業者同士で限られたリソースの奪い合いになると予測されます。食品メーカーや小売店などの企業から出る使用済み食用油はもちろん、一般家庭から排出される使用済み食用油の量も無視できないため、これらの回収ネットワークの整備を進めなければなりません。それと同時に、食料生産と競合せず必要量に合わせて供給できる原料として、ユーグレナ油脂培養の技術開発にも一層力を入れていきます」
ユーグレナ社の次世代バイオ燃料「サステオ」は2025年の商業化を目指す
サステオのバイオジェット燃料(SAF)とバイオディーゼル燃料。バイオディーゼル燃料は、ディーゼルエンジンを積んだ自動車や重機、船などで使用される。
2022年12月、ユーグレナ社、PETRONAS、Eniの3社は、マレーシアでバイオ燃料製造プラントを建設・運営する方向で協議検討していることを発表した。製造能力は1日あたり最大で1万2500バレル(約2000キロリットル)で、2025年のプラント完成を目指すという。
「今まで10年余り次世代バイオ燃料の開発に取り組んできて、いよいよ商業化への道筋が見えてきました。何億年もかけて地球が貯めてくれた化石燃料を、人類はこの100年余りでごっそり採り尽くして燃やしてしまっているわけですが、弊社のコーポレートパーパスである『人と地球を健康にする』の実現に向け商業プラントを完成させ、温室効果ガスの削減に継続的に尽力してまいります」
一方の自動車業界に目を向けてみると、菅前総理が2021年1月「2035年頃までに新車販売をすべて電動車にする」と宣言したが、ディーゼルエンジンに依存するトラックは扱いが別途定められることになる見込みだ。脱炭素化の動きの中、ディーゼル車が依然存続するとなると、SAFよりも前から国内開発が進められてきたにも関わらず、技術上の問題などもあり普及がなかなか進まなかったバイオディーゼル燃料が再び日の目を浴びることになるかもしれない。
「自動車に関しては、乗用車と働く車の2つに分けて考える必要があります。乗用車で近距離走行するのであればEV(電気自動車)でも問題ありませんが、巨大な車体に重い荷物を積んで長距離走るには、ディーゼルエンジンでないと厳しいわけです。EVやHV(ハイブリッド車)、水素を使ったFCEV(燃料電池車)への移行と同様、軽油の代わりにバイオディーゼル燃料を使うこともまた、カーボンニュートラルに向けた選択肢のひとつなのです」
SAFについては、東芝など6社が合同でCO2電解技術を用いたSAF製造を検討しており、日本製紙など3社がSAFへの利用を前提に国産木材を原料とするバイオエタノールの生産に乗り出した。また、「ACT FOR SKY」に加盟する伊藤忠商事は、日本初となるニートSAF(混合前のSAF)の輸入と国内でのジェット燃料混合サプライチェーンを構築し、中部国際空港など3空港で国内混合SAFの供給を開始したばかりだ。
各社、異なる技術やネットワークによるアプローチが本格化し、日本のSAF利用やカーボンニュートラル の達成状況がどうなっていくのか、動向に注目したい。
文/松嶋千春(清談社)