昨今のカーボンニュートラルへの機運の高まりを受け、SAF(サフ)と呼ばれる航空燃料が注目を集めている。SAFとはSustainable Aviation Fuelの略称で、直訳すると「持続可能な航空燃料」。動植物油脂や使用済み食用油、木くずなどのバイオマス(生物資源)といった持続可能な原料により製造された燃料そのもの、および既存のジェット燃料と混合したものを指す。従来の化石燃料と比較すると約80%の二酸化炭素排出量を軽減できるうえ、既存の航空機や給油設備にそのまま使えるとあって、SAFは航空業界における脱炭素の切り札とされている。
2027年以降、国際線で二酸化炭素総排出量の目標値を達成できない企業には罰金が科せられる見込み
2022年3月、国産SAFのサプライチェーン構築を目指し、ANA、JALをはじめとする企業16社が有志団体「ACT FOR SKY」を立ち上げた(2023年3日現在は25社が加盟)。さらに同年11月、日揮HD、コスモ石油、レボインターナショナルの3社は、国産SAFの製造や供給事業を行うための新会社「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」を設立するなど、国内では多数の企業を巻き込む大きな動きが続いた。
微細藻類等を使用した次世代バイオ燃料「サステオ」の開発を手がけるユーグレナ社の執行役員・エネルギーカンパニー長の尾立維博氏によれば、このような国内でのSAF供給の取り組みが加速している背景には、国際民間航空機関(ICAO)の掲げる、2050年までのカーボンニュートラルに向けた短中期目標が具体化したことにあるという。
CORSIA(国際⺠間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)では2035年の達成を意図し、「燃焼効率の年平均2%改善」「2020年以降二酸化炭素の総排出量を増加させない」という短中期目標が掲げられた。2021〜2023年は2019年のCO2排出量をベースラインとし、2024〜2035年は2019年のCO2排出量の85%をベースラインとしている。ICAO加盟国である日本は2021年よりCORSIAに自発参加しているのだが、2027年以降はICAO加盟国の参加が義務化され、総排出量の超過に応じて罰金が課せられることになったのだ。
「コロナ禍で一時的には減ったものの、国際線のフライト数は年々増加しています。その中で二酸化炭素の総排出量を増やさないために、各社で燃費の良い航空機の導入や、運航方式の改善に取り組んできました。しかしそれだけでは目標達成は到底見込めないため、二酸化炭素の排出量を大幅に減らすことができるSAFの導入が、カーボンニュートラル達成においては欠かせないわけです」(ユーグレナ社 尾立維博氏、以下同)
SAFの主な原料となる植物は光合成によって二酸化炭素を吸収するため、燃料を使用した際の二酸化炭素の排出量が実質的にはプラスマイナスゼロに近づけることができると期待される。
SAFの原料や製法にはいくつか種類があり、それぞれ従来の石油系燃料との最大混合率が定められている。
「現状、国際規格で認められているSAFの製造方法および原料は7種類あり、最大で50%までの混合が認められています。すでに世界ではSAFを給油した飛行機が48万回以上飛んでいますし、これはあくまでも私見ですが、いろんな実績を積み重ねていく中で、2050年までにカーボンニュートラルを現実的に達成するためには遅かれ早かれ“既存のジェット燃料を混合しない100%バイオ燃料のSAF”でのフライトが実現する日が来るのではないかと思っています」