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7月の改正道路交通法施行に向けて注目が集まる、電動キックボードのシェアサービス「LUUP」開発秘話

2023.05.22

電動キックボードや電動アシスト自転車などの電動マイクロモビリシティのシェアリングサービスを提供している、株式会社Luup20231月の時点で、ポート数は2500か所を超え、ますますユーザーの利便性が高まっている。スマホから利用予約が簡単にできる手軽さも、同サービスの魅力だ。

20237月から改正道路交通法が施行となり、16歳以上は運転免許不要で同サービスの利用が可能になり、今後さらにユーザーが増えることが見込まれている。 

今回は、「Luup」の代表取締役社長兼CEO岡井大輝さんに、サービスの誕生秘話や開発での試行錯誤についてお話を伺った。

*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。

Luup」代表取締役社長兼CEO岡井大輝さん

 日本の課題を解決する「電動マイクロモビリティのシェアリングサービス」

 LUUPの「電動キックボード」は、立って乗る仕様になっており、ボタンを押すだけで走行できる。スピードは自転車ほどの速度。また、同サービスで利用できる「電動アシスト自転車」は、従来のシェアサイクルよりも小型な点が特徴だ。岡井さんはサービスの特徴について次のように話す。

LUUPは、電動小型モビリティを街中のコンビニやオフィス、マンションといったさまざまな場所で、スマートフォンから気軽に、短時間借りることができるモビリティのシェアサービスです。スマートフォンから予約をしてもらい、機体についているQRコードを読み取るだけですぐに乗車できます」(岡井さん)。

実は、はじめからから電動マイクロモビリティのサービスを始めようと思っていたわけではなかったと、岡井さんは創業当時を次のように振り返る。

「元々は、アジアの諸外国でメジャーだったアプリを活用した介護士の派遣サービスを日本で始めようとしていたんです。ただ、今後、人口が減っていく中で、日本で困ることは何かを考えた時、長期に渡って日本で必要になる事業を作りたいと考えました。そこで目をつけたのが、IoT技術を活用した新しい公共交通機関の開発です。公共交通機関の形が、都市の課題に影響を及ぼすと考えたんです」(岡井さん)。

政府に「安全性」を認めてもらうところからのスタート

 現在は電動キックボードと電動アシスト自転車の2種類を提供しているLUUPだが、サービス開始当初は、電動アシスト自転車のみを提供していたという。

「まずは、電動アシスト自転車のシェアリングサービスを通して、街中にポート数を増やしていきました。並行して、政府や自治体、ユーザーの方に将来的に電動モビリティが使えるようになると『より良い社会』が実現できることを知っていただく活動もしていましたね」(岡井さん)。

電動キックボードのシェアリングサービスを提供するため、サービス開始から23年ほどは、政府や警察庁などに安全性を示すことに奔走したという。 

「ユーザーに乗ってもらえば安全性は一発でわかりますが、仮に安全でなかった場合の責任は誰も取れません。そのため、『公道で走行しても安全だ』ということを政府に実証する必要がありました。政府と一緒に実証実験する前段階でも安全性の実証が必要で、公道ではない大学の敷地や公園などで、30回ほどの実験を重ねてきました」(岡井さん)。

自治体を巻き込むことで政府に本気度が伝わった 

岡井さんは、政府の協力を得る部分に難しさがあったと語る。その突破口となったのは、「自治体を巻き込む」ことだったという。

5つの自治体に、それぞれの抱える課題に対してIoTで動く乗り物がどのように役立つかを提示してもらう機会を得ました。例えば、買い物難民やオーバーツーリズムなど、電動モビリティは具体的な課題の解決策の一つとなるんです。その様子がメディアにとりあげられ、政府関係者にも電動モビリティの必要性を認識してもらえました。それ以降は議論がスムーズに進んだので、一つのターニングポイントとなりましたね」(岡井さん)。

そこに至るまでには、チームメンバーの並々ならぬ努力があった。北海道から沖縄まで全国へ赴き、各地で電動キックボードの実証実験を行ったという。

「全国各地を訪れ、地元の警察、自治体のトップの方などに乗ってもらい、安全性の実験をしてきました。他にも、地元の若い方からご高齢の方までさまざまな人に乗ってもらったんです。地方ごとに異なる実際のフィードバックを、そのタイミングで聞けたこともよかったと思っています」(岡井さん)。

このような地道な取り組みにより、ついに関係省庁が安全性に関しての議論をしてくれる段階に至る。政府との交渉以外に苦労したエピソードについて、岡井さんは次のように語った。

 「お金がどんどんなくなるけど、売上が入るタイミングも決まっていないことが大変でしたね。サービスの始められる時期が未定な中、ハードウェアの専門家を入れ、実証実験のために毎月数百〜数千万円の費用がかかっていました」(岡井さん)。

また、電動モビリティの開発には、通常のソフトウェアとハードウェアの開発よりも負担のかかる要素があったという。

 「一般的にソフトウェアとハードウェアの開発をするときは、ユーザーの声を反映してユーザーの求めるものを作ります。ただ、今回はユーザーだけでなく、自治体や警察、国交省、機体の横を走る車やタクシードライバー、歩行者など、さまざまな人の声を反映していかなければなりませんでした」(岡井さん)。

少数精鋭チームへのこだわり

 電動マイクロモビリティはアップデートのサイクルが早いことから、高速なサイクルを回すため、同社はスタートアップ企業の強みを活かしてきた。プロジェクトを成功させるチーム作りの鍵となったのは、「少数精鋭のチーム作り」と岡井さんは次のように話す。

 LUUPは少数精鋭の体制をとっているため、各所で活躍してきたプロフェッショナルなメンバーを集めています。現メンバーには、モビリティを扱う保険会社にいた方や、IoT関連のロボットを作っていた責任者の方などがいます。チームメンバーの採用が一番大変でしたし、今後も一番の課題になると思っています。急成長して高速でサイクルを回さないといけませんが、チームメンバーは『量より質』を大切にしないといけません。現状は、ありがたいことにベストな方に入ってもらっている実感があります」(岡井さん)。

ユーザーから得られた狙い通りの反響

 さまざまな壁を乗り越え、電動アシスト自転車のシェアリングサービスのリリースから1年後に、電動キックボードを同サービス内に導入開始。岡井さんはサービス開始からこれまでを次のように振り返った。

「電動アシスト自転車のシェアリングサービス開始当初、カフェの入り口やマンションの近くなど、街中のいろんなところにポートがあることに驚きの反響をもらいました。その1年後、電動キックボードのサービスが始まると、一気に皆さんの注目が集まったんです。まず『あれ、なんだ?』となるんですね。初めて目にした人がネットで検索をすると、LUUPで借りられることがわかります。だから今でも、晴れている日にアプリのダウンロード数が多いんです」(岡井さん)。

 LUUPには返却後に感想を送る機能があり、電動キックボードに関してユーザーから次のような声が挙がっているという。

「よくいただく声は、『時速15キロで車の横を走るのはやはり怖い』というもの。走行スピードが歩行者でも自転車でも車でもない中途半端なものは、怖く感じるとわかりました。他には、『街中にたくさんポートがあって便利』『LUUPの機体はとてもキレイに停まっている』などの声は、僕らの『狙い通り』という意味でとても嬉しいですね」(岡井さん)。 

改正道路交通法施行後がスタート地点

 リリース後から予想を超えた利用数に「ありがたい現状だ」と語る一方で、岡井さんは「まだまだスタート地点」だと話す。

 「正直、ここまでの12年間は、電動キックボードの安全性の検証が大きな目的だったので、こんなに多くの方に使っていただける未来を想像していませんでした。ただ、改正道路交通法が施行となる2023年の7月からが、元々私たちがやりたかったプロジェクトのスタート地点です」(岡井さん)。

 改正道路交通法が施行されると、時速20kmまでスピードが出せるようになる。また、時速6kmまでにスピードを落とせば、走行可能な標識のある場合に限り、歩道の走行も可能だ。

 「道路交通法の改正を受けた一番大きな機体の変更点は、最高速度表示灯を搭載したことです。これは、低速モード(最高時速6km)に切り替えたときに点灯します。法改正を受け、車の往来が多く、危険性を感じた場合には電動キックボードも歩道を走行できるんです」(岡井さん)。 

サービスを通して新しい豊かさが得られる街づくりを

 電動キックボードの安全性を検証するために、多くの走行データが必要だったことから、都市部でのサービスに限定されていたLUUP。これからはサービスエリアを一気に拡大していく予定だという。

 「政府の安全性の検証フェーズが終わったので、次はエリア拡大フェーズです。都市部もさまざまな課題を抱えていますが、公共交通機関が発達していない地方エリアには、より解決が困難な課題があります」(岡井さん)。また、電動モビリティの可能性についても「乗り物は電動で制御した方が安全です。IoT技術を使えば、車両がどこを走っているかも危険な挙動も検知し速度を切り替えられます。また、ユーザーの過去の行動に即した対応も可能です。現在、若者から高齢者まで全世代が気持ちよく乗れるユニバーサルなモビリティの開発に取り組んでいるところです」(岡井さん)。

 最後に、岡井さんは今後の展望について、次のように語ってくれた。

 20237月からの改正道路交通法の施行が控えているため、短期的には新しいルールを利用者の方や周囲の方々にしっかり周知する必要があります。長期的には、弊社のミッションでもありますが、街中を駅前化する街づくりをしていきたいです。LUUPのような電動マイクロモビリティが街のどこからでも乗れると、都市の密度構造が変えられます。駅から遠くても新しい豊かさと利便性が共存した都市の形を作っていけるんです。今後もLUUPは電動モビリティを通じ、都市と地方の課題を解決していきます」(岡井さん)。

取材・文/久我裕紀

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