他人の汗のにおいで社交不安症患者の症状が軽減?
他人の汗のにおいを嗅ぐことで、社交不安症の症状が軽減される可能性があるとの研究結果を、カロリンスカ研究所(スウェーデン)のElisa Vigna氏らが、欧州精神医学会(EPA 2023、2023年3月25~28日、フランス・パリ)で発表した。
社交不安症の治療法の一つとなっている瞑想を取り入れたマインドフルネス療法に他人の汗のにおいの吸入を組み合わせることで、不安レベルが大幅に低下したという。
本研究は、治療効果を増強する目的で体臭(汗のにおい)を用いた初めてのものであり、Vigna氏は得られた結果について、「極めて興味深く、有望性がある」と述べている。
社交不安症は、周囲の視線のある中で何かをすることに対して絶え間なく強い恐怖心を抱く状態を指す。
米国立精神保健研究所によると、社交不安症はよくある疾患だが、最終的に、仕事や学校に行くことができなくなったり、人前での食事や公衆トイレの使用など、多くの人々にとって当たり前にできることも難しくなるなど、日常生活に支障を来すほど重い状態になることもあるという。
このような症状は、治療しない限り何年間も続き、ときには生涯にわたってその人を苦しめることもある。
社交不安症に対して治療選択肢となるのが、マインドフルネス療法だ。Vigna氏は、「マインドフルネスは瞑想法の一つで、『今、この瞬間』に集中し、解釈や判断をすることなく自分の思考や感情を意識することに重点が置かれている。先行研究では、マインドフルネスによって不安や抑うつ症状が改善する可能性が示されている」と説明する。
今回の研究でVigna氏らは、マインドフルネスとともに、不安に対する人間の汗の効果にも着目した。汗には体を冷やす働きがあるが、それに加えて少なくとも300種類以上の化合物が含まれており、濃密で複雑な情報源となっているという。
また、これまで相当数の研究で、恐怖心や幸福感などの重要な感情からの情報処理におけるにおいの重要性が示されていることにも同氏らは言及している。
その一方で、社交不安症を抱える患者は、特に体臭に敏感である可能性を示した研究も報告されていた。
そこでVigna氏らは、18~35歳の社交不安症の女性患者96人を対象に、汗のにおいに不安を軽減する効果があるのかどうかを検討するランダム化比較試験を実施した。
研究は2日間にわたって行われ、この間に全ての患者にマインドフルネス療法が実施された。また、社交不安症のないボランティアに、恐怖心を引き起こすホラー映画、または楽しい気持ちにさせるコメディー映画のいずれかを見てもらい、汗のサンプルを採取した。
その上で、対象者をマインドフルネス療法に加えて、1)恐怖心を抱いているボランティアから採取した汗のにおいを嗅ぐ群、2)楽しい気分のボランティアから採取した汗のにおいを嗅ぐ群、3)清浄な空気を吸い込む群の3群に割り付けた。
その結果、不安レベルは、汗のにおいを嗅いでいない群で17%低下したのに対し、恐怖心を抱いているボランティアの汗のにおいを嗅いだ群と楽しい気分のボランティアの汗のにおいを嗅いだ群ではともに39%低下し、汗のにおいを嗅ぐことで不安が大幅に軽減することが示された。
Vigna氏らは、汗のにおいの効果に採取時の感情が影響していなかったことには驚いたと話す。この結果から同氏らは、「汗の化学シグナルには全般的に有利に働く何かが備わっている可能性がある」との見解を示している。
研究グループは現在、恐怖や楽しさなどの感情を引き起こさないニュートラルな状況下で採取された汗のにおいを嗅いだ際の効果について検証を進めているところだという。
なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2023年3月28日)
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(参考情報)
Press Release
https://www.europsy.net/app/uploads/2023/03/Vigna-for-EPA.pdf
構成/DIME編集部