3月8日に米シルバーゲート銀行が自主清算を発表したことを契機に一気に高まった金融不安。この発表の前後で、米国株はどのような動きを見せたのだろうか?
三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩氏がその時々の市場動向を解説する「市川レポート」の最新版として、「米国の金融不安と株式市場の展望」と題したレポートを発表した。レポートの詳細は以下の通り。
過度な不安後退で3月7日以降、ダウ平均、S&P500、ナスダックは上昇も、銀行株指数は低迷
米シルバーゲート銀行が自主清算を発表した3月8日から、まもなく4週間が経過する。この間、米国ではシリコンバレーバンク(SVB)やシグネチャー・バンクが破綻し、スイスではクレディ・スイス・グループを巡る混乱が表面化するなど、金融不安が一気に高まった。
ただ、その後は連鎖的に銀行の問題が広がることはなく、過度な不安は幾分、後退したように見受けられる。
そこで、改めて米国株の動きを確認すると、米シルバーゲート銀行の自主清算発表前日の3月7日から31日までの期間、ダウ工業株30種平均は1.3%、S&P500種株価指数は3.1%、ナスダック総合株価指数は6.0%、それぞれ上昇している。
しかしながら、米国の大手行や主な地銀で構成されるKBWナスダック銀行株指数は、同期間21.7%下落しており、銀行セクターは依然、低迷が続いている。
情報技術、通信サービス、公益事業などは好調、市場はある程度信用条件の引き締まりを想定
次に、もう少し詳しく業種別の動きを検証する。同じく3月7日から31日までの騰落率をみると、「情報技術」や「通信サービス」、「公益事業」や「生活必需品」が好調で、ハイテク銘柄や景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄が選好されている様子がうかがえる(図表1)。
これに対し、やはり「金融」は最も低調で、景気敏感な「資本財」や「素材」なども下落している。
一般に、金融不安などで銀行の貸出姿勢が厳格化すると、信用条件が引き締まり、景気の下押し圧力となる。
そのため、図表1の動きから、市場はこの先、ある程度の信用条件の引き締まりを前提とし、「利上げ終了」、「景気減速」、「長期金利低下」を見込んでいると推測される。
このシナリオの下では、銀行借入に頼らずとも潤沢な現金を保有し、長期金利の低下が追い風となるハイテク銘柄が、最も物色されやすいと考えられる。
業種別の動きは信用条件の引き締まり次第、今後も銀行に関する新たな悪材料の有無に注意
図表1のような傾向が続くか否かは、信用条件の引き締まりの度合いによるところが大きいと思われる。
すなわち、米国で今後、信用条件が強く引き締まれば、情報技術、通信サービス、公益事業、生活必需品などのパフォーマンスが、金融、資本財、素材などのパフォーマンスを相対的に上回る可能性が高いと考える。
一方、金融不安が収束に向かい、信用条件の引き締まりが軽度となれば、これとは逆の動きも予想される。
なお、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融機関向けに積極的に流動性を供給しており(図表2)、中小銀行の預金残高は3月22日時点で前週比59億ドル増と、3月15日時点の同1,964億ドル減から預金流出が一服している。
金融不安はまだ完全に払しょくされた訳ではないが、銀行に関する新たな悪材料が浮上しない限り、信用条件の引き締まりが更に加速する恐れは小さいと思われる。
※個別銘柄に言及しているが、当該銘柄を推奨するものではない。
出典元:三井住友DSアセットマネジメント
構成/こじへい