■連載/阿部純子のトレンド探検隊
空き家は年々増加しており、2018年の段階で、日本の総住宅数6242万戸のうち空き家率は13.6%、7戸に1戸が空き家という状況になっている。こうした状況で空き家を中古物件として活用することが望まれるが、総住宅数における中古住宅の割合は、アメリカ81%、イギリス85.9%、フランス69.8%に対し、日本は14.5%しかなく、日本は諸外国と比較すると圧倒的に中古住宅の取引が少なくなっている。
日本の中古住宅が少ない理由として、新築志向の強さがあるが、住宅の質の低さも要因として挙げられる。下記のデータは断熱性を諸外国と比較したものだが、日本が一番劣っていることがわかる。
こうした状を鑑み、国でも断熱性能基準を強化させているが、中古住宅で現行基準を満たしているのは13%しかない状況だ。
コロナ禍をきっかけに地方移住が増えているものの、MUJI HOUSEが調査した結果では、都会に住みたいと考えているのは53%と過半数を超える。しかし首都圏のマンションの1㎡平均単価は2023年2月で、新築で101万円、中古で68万円。70㎡程度のファミリー向けの新築マンションを購入しようとすると7000万円に上る。中古だと2000万円ほど安く買えることから、マンションや戸建の中古物件を購入してリノベーションをする人も増えてきている。
団地をリノベーションしてきた無印良品が中古マンション、戸建のリノベにも着手
無印良品では2012年から「MUJI× UR 団地リノベーションプロジェクト」を開始。団地の居住者が高齢化していく中、若い世代に住んでもらい団地を活性化してほしいというURの意向でリノベーションを行った。
団地は日当たり、風通しが良く、公園の中に住んでいるような環境の良さもあることから、性能を向上させたリノベーションで再生すれば若い世代にも訴求できると、築40~50年の築古団地を中心に全国で1000 戸以上リノベーションを行った。プロジェクトは好評を得て空き室はほぼない状況だ(下記画像は神奈川県藤沢市の団地リノベーション)。
2021年からは「MUJI× UR 団地まるごとリノベーション」をスタート。住居部分だけでなく、集会所や近隣の商店街など共有部分もリノベーションをして団地の活性化を図る。
「無印良品では団地の環境の良さ、住みやすさを追求してリノベーションに取り組んできました。共用部のリノベーションでは、団地の住民だけでなく周辺住民も含め人が集まることで、コミュニケーションを活発させ地域の満足度を上げることができます。我々は建物というハードを先に作るのではなく、団地、周辺住民の声を聞きながら、建物というハードに落としていく方法を取っています」(MUJI HOUSEリノベーション事業部長 豊田輝人氏)
2015年から発売開始した「MUJI INFILL 0」は、自宅リノベーション、物件購入リノベーション商品。ただ、施工に6か月ほど要することや、中古物件を見つけること自体にハードルが高いと感じている人も多く、2021年からは無印良品で購入した物件をリノベーションした「MUJI INFILL 0 完成品」も発売した。
一般的なリノベーションでは見た目に関わる要素を重視している場合が多いが、無印良品では生命や健康に関わる性能部分を最も重視。「MUJII NFILL 0」では耐震性は「大地震でも倒壊しない」新耐震基準をすべて満たしている商品のみを発売する。
冬場に暖房の効いた部屋から寒い脱衣所に移動して浴槽に入るときなど、温度差によって起こるヒートショックは、交通事故よりも亡くなる人数が多い。「MUJI INFILL 0」では、複層窓や高性能な断熱材を外壁に貼るなど高断熱を実現。全戸、国の基準に沿った温熱計算を実施し、温熱等級4以上、BEI 値0.9以下を標準としている。
建築物省エネルギー性能表示制度「BELS」では最高等級の5つ星を獲得。一次消費エネルギー34%低減、年間光熱費が26%(想定計算値:年間23万円→17万円)低減する省エネ性の高い商品となっている。
築年数が古い中古マンション、団地で心配なのが雨漏りや水漏れだが、壊せる部分は解体して不具合がないか確認する「スケルトンリノベーション」で、見えない部分まで確認する。
広い空間を作るため、無駄な廊下やスペースをなくし、限られた空間を広々と使える間取りも特長。間仕切りも少なくなり、光や風が奥まで通り抜ける快適な空間に。
また、長年住んでいると子供が生まれたり、独立したりで住む人数も変わってくるため、変化に対応できる可変性のある空間を重視。3人暮らしが一般的な52㎡の場合、引き戸や背高の可動性のある家具で間仕切りを作り、住んでいる人自身が間取りをカスタマイズできる。
「MUJII NFILL 0 完成品」の平均価格は1㎡あたり36万円で、首都圏の中古マンション(平均価格1㎡68万円)と比べても安くなっている。2025年以降年間 100 戸供給を目指す。