「戦略」や「ターゲット(標的)」に代表されるように、軍事・戦争で使われる言葉にはビジネスシーンでも頻繁に使われるものも少なくない。「空中戦」もその一つだ。文字通り空中で起こる戦闘を指す言葉だが、会議やスポーツ、選挙など、さまざまな場面で比喩的に使われるため、ビジネスの教養として知っておくと役立つだろう。本記事では「空中戦」の言葉の意味と使い方を解説する。
分野によって意味が異なる「空中戦」
「空中戦」の読み方は「くうちゅうせん」。空中で行われる航空機同士の戦闘を指すが、ビジネスやスポーツとも相性が良く、本来の軍事用語とは異なるさまざまな分野で使われる。また、分野によっては、空中戦の対義語として、地上での戦闘を意味する「地上戦」をセットで用いる場合もあるため、覚えておくと便利だ。
「空中戦」は飛行機の発明によって生まれた
本来の意味の「空中戦」は、飛行機の発明以降に登場した言葉。1903年にライト兄弟が発明した飛行機は、第一次世界大戦で兵器活用されたことで量・質ともに向上した。続く第二次世界大戦では、戦闘を有利に進める上で空域の確保(制空権)が欠かせないものとなり、飛行機は戦闘の主役となる。これによって「空中戦」という言葉が浸透した。飛行機と戦争がなければ生まれなかった言葉と言えるだろう。
サッカーの「空中戦」、野球の「空中戦」
スポーツ分野でも「空中戦」の言葉を聞く機会は多い。ただし、サッカーと野球ではまったく別の意味となるため、それぞれが指すものを覚えておこう。
サッカーの「空中戦」とは、ヘディングによるボールの奪い合いが起きる状態のこと。サッカーボールが宙を舞う様子が名前の由来となっている。
一方、野球の「空中戦」とは、本塁打による得点の取り合いを指す。ホームランが何本も打たれ、球場内に高い球が何回も上がる様子が由来だ。
ビジネスで一般的な「空中戦」の意味は中身の薄い議論
ビジネスシーンでは、主に会議やミーティングの様子を表す言葉として「空中戦」が使われる。文章や資料の提供がなく言葉のみで議論をすることや、発言が続くばかりで結論が出ない状態など、どちらかと言えば悪いニュアンスで使われるケースが多い。
また、「空中戦」の対義語として「地上戦」が使われる場合もある。こちらは言葉のみで交わされる議論(空中戦)を、文字やデータ・図などにまとめて可視化することや、議論の着地点を決める(結論を出す)ことを指す。
選挙分野に使われる「空中戦」の定義とは?
選挙活動における「空中戦」とは、候補者が不特定多数の有権者に自分の顔と名前を宣伝する行為を指す。例えば、選挙の宣伝カーや駅前・街なかでの街頭演説に代表されるように、人の多い場所や時間帯に候補者の名前と顔を露出することで認知度を高めて得票を狙う。従来、「空中戦」の代表と言われていた街頭演説・ビラ配りに加えて、近年ではテレビへの出演やインターネット(とりわけSNS)による情報発信も「空中戦」の重要戦略に含まれる。
なお、選挙の「空中戦」にも対義語としての「地上戦」が存在する。こちらの「地上戦」の意味は、候補者が一軒一軒の家を訪問し、あいさつ回りをすること。有権者と直接対面することで心象に残りやすく、小規模な選挙では特に重視されている。「空中戦」と比較すると時間と労力がかかる点が「地上戦」と呼ばれるゆえんだろう。
マーケティング分野での「空中戦」は、プル型の広告戦略を指す
広告・マーケティング分野における「空中戦」とは、広告を活用して企業の情報を消費者に認知してもらうことを指す。属に「プル型マーケティング」と呼ばれる広告戦略で、興味を持った消費者側から企業に問い合わせをしてもらう。
プル型マーケティングに使われる主な広告媒体は、テレビCM、新聞広告、交通機関広告(電車の車内広告等)、チラシ・ポスティング、企業の自社サイトやSNS・プラットフォーム型サイト等を使用した情報発信、イベント・展示会への出展など多岐にわたる。
また、マーケティング分野においても「空中戦」の対義語として「地上戦」が使われる。こちらは、企業側が消費者等に働きかけ、商品購入やサービスの申し込みを促す「プッシュ型マーケティング」を意味する。具体的には、営業(テレアポ、飛び込み)や、ダイレクトメールの送付、企業ホームページからの問い合わせなど。空中戦と比較するとマンパワーが必要で、地道な努力が求められる点が、戦闘における「地上戦」をイメージさせることから使われている。
文/編集部