パナソニック くらしアプライアンス社と美容室向けヘア化粧品メーカーのミルボンは、公⽴⼤学法⼈ ⼭陽⼩野⽥市⽴⼭⼝東京理科⼤学 佐伯政俊講師との協働により、毛髪のミクロ構造のダメージをケアする成分を根元から均一に噴霧して、根元から毛先にかけて徐々に失われがちな毛髪のしなやかさを与える技術を開発した。
なお、本研究の成果は、2023年3月22日に開催された日本化学会 第103春季年会(2023)において、「毛髪損傷による微細構造の変化の観察」として発表された。
根元付近から始まるダメージ初期症状の解明研究
毛髪はヘアカラー、ヘアアイロンなどの美容施術や紫外線によってダメージを受け、手触りや見た目が悪くなる。特にその変化は毛先にかけて顕著になることが知られている。
これまで、ダメージ現象が進行する前の初期段階からケアすることができれば高いヘアケア効果が得られると考えられており、根元付近から始まるダメージ初期症状の解明研究に取り組んできた。
その結果、根元付近から毛髪内部のミクロ構造が変化を起こし始め、毛先部分ではさらにその現象が進行。毛髪のしなやかさが失われていくことが判明した。
この研究結果を受け、両社ではダメージの初期症状が始まっている根元付近の毛髪を継続的にケアできる技術の開発に着手。
しかし根元付近は、手触りや見た目ではダメージを感じにくいためトリートメントでケアする習慣が一般的ではないうえに、毛髪が密集しているためトリートメントを均一に塗布しづらいことが課題だった。
そこで、根元付近から始まるダメージ現象をケアする成分を見出し、さらにその成分を根元付近から均一に行き渡らせる技術を確⽴することができれば、ダメージの初期症状から根本的にケアできる“新たなヘアケア習慣”になると考えたという。
その成果は以下のとおり。
効果成分をミスト状に噴霧することで、しなやかさの指標となる毛髪強度が向上することを確認
毛髪のしなやかさの指標となる毛髪強度を向上させる成分を探索するために、成分を毛髪全体に均一に噴霧できる専用の機器を用いて検証を実施。
その結果、トレハロースとポリエチレングリコールの組み合わせによって毛髪強度が高まることがわかった(図1)。
効果成分をミスト状に噴霧することで、毛髪の内部構造が整うことを確認
毛髪強度には毛髪組織のミクロフィブリル(※1)(図2a)が関与することが知られている。上記効果成分で強度向上した毛髪のミクロフィブリルの状態を、⼤型放射光施設 SPring-8(※ 2)のマイクロビーム-⼩角X 線散乱法(μ-SAXS)(※ 3)で調べた。
その結果、ミクロフィブリルのダメージが改善していることを確認(図2b)。また、ミクロフィブリルを構成するタンパク質の状態をSPring-8 の⾚外分光法(※4) で調べたところ、同効果成分を作用させた毛髪は、ダメージによって生じるタンパク質構造の崩れが改善されていることを確認した(図2c)。
※1 ミクロフィブリル
毛髪コルテックスのミクロ構造を形作る組織のひとつ。コルテックスはマクロフィブリルという構造の集合体で構成されており、マクロフィブリルは結晶性のミクロフィブリルと⾮晶性のマトリックスによって構成されている。
※2 ⼤型放射光施設 SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる理化学研究所の施設。SPring-8
の名前は Super Photon ring-8 GeV(80 億電⼦ボルト) に由来。放射光とは、電⼦を光とほぼ等しい速度まで加
速し、電磁⽯によって進行⽅向を曲げた時に発生する強⼒な電磁波のこと。SPring-8 では、この放射光を用いてナノテクノロジー・バイオテクノロジー・産業利用まで幅広い研究が行われている。
SPring-8 ホームページを参照(http://www.spring8.or.jp/ja/)
※3 マイクロビーム-⼩角 X 線散乱法(μ-SAXS)
物体に照射した X 線はその物体内合を特にマイクロビーム-⼩角 X 線散乱法という。
※4 ⾚外分光法
可視光よりも波⻑の⻑い⾚外領域の光を物体に透過あるいは反射させ、対象物の組成や化学構造、分⼦結合の状態に関する情報を得る測定⽅法。
関連情報
https://news.panasonic.com/jp/press/jn230323-3
構成/清水眞希