企業、大学、職人が共創する新たな食のプロジェクト
3月30日、パナソニック くらしアプライアンス社(以下、パナソニック)は、共創パートナーと新たな食の体験価値を創造する「未来の食プロジェクト」を発表した。
「未来の食プロジェクト」とは、パナソニックと京都大学と食のプロ集団である「KYOTO SNT LAB.」の3者による共創プロジェクトのことで、食に関する要素技術の研究段階から連携していくことで、新たな食の価値を創造することを目指すというもの。
発表会には、パナソニック株式会社くらしアプライアンス社常務・キッチン空間事業部の太田晃雄事業部長、同社冷蔵庫・食洗機BU冷蔵庫技術部の松山真衣主任技師、京都大学大学院工学研究科化学工学専攻・中川究也准教授、KYOTO SNT LAB.から「一子相伝なかむら」中村元計氏、「京料理 直心房 さいき」才木充氏、「京料理 木乃婦」高橋拓児氏が登壇した。
同社のキッチン空間事業の領域は、大きく、主食、飲料、冷蔵・食洗、調理の4カテゴリーに分けられるが、当日、行なわれたプロジェクトの発表会で、「今後、ひとり一人の『食』に向き合うことで社会問題を解決し、食卓も社会も笑顔あふれる未来のために、食を通じて人も地球も大切にする文化をつくりたい」と同社の太田晃雄常務はコメント。また、このプロジェクトを活用し、同社は2030年までに既存のfodableやEATPICK marcheなどのサービスを100億円規模の新たな事業へと成長させる計画だとしている。
また、その第一弾として、京都大学大学院 工学研究科化学工学専攻 中川究也准教授との共同研究で開発を進めている「常圧凍結乾燥技術」を用いて、料理を科学する料理作家集団・KYOTO SNT LAB.と共に乾燥食品のプロトタイプを完成させたことを発表。
これまで同社が研究開発を進めてきた冷凍冷蔵庫を、学術的なアプローチと料理のプロの知見を掛け合わせることで、保温庫+調理庫という新たな価値観のプロダクトに昇華させて、食のおいしさを追求していく方針を打ち出した。同社 キッチン空間事業部 冷蔵庫技術部の松山真衣氏は、以下のように話す。
新技術による乾燥食品(イチゴとパイナップル)
「パナソニックのキッチン家電事業は、電気コンロの生産を開始した1927年に端を発します。その後、1935年にはトースターとコーヒー沸かし器の発売に続き、1953年の家庭用冷蔵庫、1956年の電気炊飯器、1966年には家庭用電子レンジの販売を開始するなど事業を拡大してきました。こうして家電製品を通じて家事の負担軽減を図るとともに、食品を冷凍保存する2ドア冷凍冷蔵庫と食品を解凍する電子レンジを組み合わせて冷凍食品を積極的にメニューに取り入れるなど、常に社会変化に合わせた新たなライフスタイルを提案し続けています。
一方で、科学的なアプローチで美味しさを追求し、調理家電の進化を通じて豊かな食卓を届けてきました。2001年以降は、産学連携で「食のおいしさ」に関する研究に着手し、その研究成果を製品開発に応用しています。例えば、冷凍に関する成果は、急速冷凍により解凍加熱後もおいしい「はやうま冷凍」、霜つきを抑えておいしさを長持ちさせる「うまもり保存」として採用し、食品の保存庫から、おいしく保存という新たな価値を提案する調理庫へと、冷蔵庫を進化させてきました。
そして今回、「未来の食プロジェクト」では、冷凍技術の可能性を追求して京都大学の中川准教授と共同研究に着手しました。新たに開発を進めている常圧凍結乾燥技術は、冷凍で鮮度を保ちながら乾燥を制御するというもの。出来上がった乾燥品は常温で長期保存が可能になるほか、従来の乾燥技術で処理した食品とは色や香り、食感が異なるという特徴を持ち合わせていることが明らかになりました。
さらに「和食を科学する」という観点で食を追求するKYOTO SNT LAB.の中村元計氏、才木充氏、高橋拓児氏との協働により常圧凍結乾燥技術の新たな価値創造に取り組み、乾燥食品の手軽さと、風味豊かな食感を兼ね備えた新たな保存食品を作る技術としての可能性も見出しました。この技術により、和食の海外展開や、機内食、宇宙食、災害食などへの展開が期待できるほか、廃棄される規格外の青果物や未利用魚などを乾燥食に加工することで、フードロス削減にも貢献できると考えています」