■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
トヨタ「プリウス」がフルモデルチェンジをはたした。1997年に登場した初代から数えて5代目となる。すでにテレビCMなどで眼にしている人も多いと思われるが、新型は低く長く構えた姿が特徴的で、4代目のようなボディー表面上の多くのギミックが廃され、クリーンでスタイリッシュになった。
メカニズム上の変更で最も大きなものは、モーターと組み合わされる4気筒エンジンの排気量が1.8ℓから2.0ℓに拡大されたこと。前輪駆動(FF)モデルと電気式4輪駆動の「E-Four」モデルの2本立ては変わらない。トヨタのサブスクサービスKINTO向けの「プリウス」だけは1.8ℓにとどまる。
エンジン排気量を先代の1.8ℓから2.0ℓに拡大したのは、TC製品企画チーフエンジニアの上田泰史氏によると「エンジンをしっかり使って、力強さを堪能したい」からだそうだ。また、「回してうれしいと思うようなエンジン」にしたとのことだった。また、上田氏は「コモディティではなく“愛車”と呼ばれるようなクルマになるように開発した」とも述べていた。
FFモデルとE-Fourモデルのそれぞれを袖ヶ浦周辺の一般道と圏央道で約1時間試乗した。試乗したFF版「Z」グレードの車両本体価格は370万円、オプション価格は34万4300円。合計で税込み価格404万4300円だ。
機械として優れているか? ★★★(※★5つが満点)
近づいてみると、テレビのCMや画像などで見るより、実物はカッコいい。ボディーの面や線などが抑制的に形作られ、心地よい緊張感を漂わせることに成功している。
運転席に座ると、強く倒れ気味のAピラーが視界を遮って、やはり気になってくる。実際に購入して乗り続けるうちに慣れてくるのかもしれないが、慣れを要することは間違いないだろう。
フロントガラス側に近付けたメーターは表示の意匠なども含めて、2022年に発表されたEV(電気自動車)「bZ4X」と考え方とデザインを共通にしているが、左横に機能を切り替える表示スペースを設け、その中で運転支援機能など大きく見せている点は「bZ4X」より優れている。
加速時の力強さは、狙い通りの先代以上のものを感じる。ハンドリングも接地感を伴う確実なものだが、シートは平板に感じるので、もっと一体感を得られたら、なお良かっただろう。確かにエンジンは力強さを発揮しているが、「回してうれしいと思う」かどうかは疑問だ。エンジンが回転し始めるとうるさいし、ガサ付いた振動も伝わってくる。モーターだけで、この加速を実現できないものだろうか。
その点、エンジンは発電機役に徹し、極力、回っていることを感じさせないようなタイミングを図りながら始動する日産のe-Powerシステムのほうが優れているように感じた。「エクストレイル」に搭載されているe-Powerシステムのエンジンはたった1.5ℓ、3気筒だったけど、プリウスよりも大きなボディを力強く、そして静かに加速させていたのだ。続いて乗ったE-Four版「Z」モデルは、乗り心地が硬く、舗装状態のよくない路面を通過した時のタイヤの上下動がドタバタと伝わってくるのが気になった。
圏央道では、新世代の運転支援システム「TSS.3」を試すことができた。ミニバンの「ノア」と「ヴォクシー」に次いで採用されたレーンチェンジアシスト機能が新しいが、働きぶりは中途半端なものだった。
ウインカーを出すと、クルマが周囲の安全を確認してステアリングを切って隣の車線に移動することをアシストするが、アシストにメリハリが足りない。また、作動中のメーターでの表示も小さく、その働き具合がわかりにくい。インターフェイスのロジックが徹底されていないのも、また残念だった。
商品として魅力的か? ★★★3.0(★5つが満点)
5代目「プリウス」は、商品として魅力的なのだろうか?見ての通り、エクステリアデザインはカッコよく仕上がっている。装飾的なギミックやディテールで煩雑だった4代目と大違いだ。走りっぷりも進化した。ただし、新世代の運転支援機能は未完成。
初代がデビューした1997年に世界は「未来がやって来た」と喝采したが、様々なハイブリッドシステムが他メーカーからも展開されている2023年現在ともなると、このトヨタの複雑なハイブリッドシステムをどう考えるかによって、自ずと5代目「プリウス」の評価も導き出されてくるだろう。
それは、エンジンの存在をどう位置付けるかという点に掛かっている。前述の通り、日産のe-Powerシステムでは、エンジンは発電のための決して出しゃばらない黒子役に徹している。それに対して「プリウス」ではエンジンは黒子ではなく主役に据えようとしている。
しかし、そのエンジンはレクサス「LC」や「RC」などに搭載されている5.0ℓV8や限定生産のレクサス「LFA」の4.8ℓV10などのような官能も甘美も持ち合わせてはいないのだから、主役は荷が重いだろう。主役のエンジンには主役を張るだけの魅力が備わっているのである。
少し前までのクルマのすべてのパワートレインはエンジンだったから、それに馴染みが深いのは当然のこと。しかし、EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド)などモーターのみ、あるいはモーター主体で走るクルマに乗ってしまうと、その滑らかさ、静けさ、さらにはガソリンスタンドへ給油しに行かなくても済む利便性の高さなどに感心させられてしまう。
と同時に、すべてが対照的なエンジン車の古色蒼然ぶりに気付かされてしまう。エンジンそれ自体に魅力を持たせた特別なエンジン以外は、黒子の役割しか残されていないのではないだろうか。
そのPHEV版の「プリウス」は追って発表されることになっていて、EVモードでの走行可能距離が先代の約50%増しの約90kmとなったのは大きな進化だ。そして、先々代からのPHEV版のみのオプションであるソーラールーフ発電による走行可能距離は1250km(1年間名古屋地域で屋外駐車して使用したシミュレーション値)を達成している。
ソーラールーフ発電には夢がある。走行エネルギーをクルマ自らが自給自足できる。家や仕事場などの屋根にソーラー発電装備がなくても、クルマ自身が太陽光を受けて走行エネルギーを作り出しているからだ。さらなる開発を期待している。人によって新しいものへの感度は異なるから、「プリウス」ぐらいの新しさのほうがちょうどいいという人もいるだろう。
しかし、筆者はかつて初代が世界を驚かせた「プリウス」だからこそ、ハイブリッドシステムにおけるエンジンの役割と意義付けに新しい道筋と解釈を加えてもらいたかった。
■関連情報
https://toyota.jp/prius/
文/金子浩久(モータージャーナリスト)