主要製薬会社がNVIDIA DGX搭載のTokyo-1でジェネレーティブAIモデル等の開発を加速
NVIDIAは三井物産との協業を実施。高解像度分子動力学シミュレーションやジェネレーティブAI モデルなど、創薬を加速するテクノロジーで日本の製薬業界をさらに発展させるためのTokyo – 1を推進することを発表した。
NVIDIA GTC グローバル AI カンファレンスで明かされた Tokyo – 1は、NVIDIA DGX で構築されたスーパーコンピューターであり、日本の製薬会社やスタートアップ企業が利用できるようになる予定だ。
この取り組みは、米国と中国に次いで世界第3位である日本の10兆円規模の製薬産業を加速させることを目的としている。
今回の発表について、三井物産 ICT事業本部 デジタルサービス事業部 デジタルヘルスケア事業室長の阿部雄飛氏は次のように述べている。
「日本の製薬会社はウェットラボにおける研究のエキスパートですが、大規模なハイパフォーマンス コンピューティングと AI の活用は未だ限定的です。Tokyo – 1 を通じて、製薬業界が計算創薬のための最先端のツールでこの状況を一変させることができるイノベーションハブを構築します」
このプロジェクトでは、ユーザー企業にNVIDIA DGX H100ノードへのアクセスを提供して、分子動力学シミュレーション、大規模言語モデルのトレーニング、量子化学、そして潜在的な薬剤の新規分子構造を生成するジェネレーティブAIモデルなどをサポートする。
また、ユーザーはNVIDIA BioNeMo創薬サービス、およびソフトウェアを通じて、化学物質、タンパク質、DNA、RNAの一般的なファイル形式の大規模言語モデルを活用することもできる。
今年後半に稼働開始が見込まれているTokyo – 1 は、三井物産の子会社であり計算創薬に特化したゼウレカが運用を行なう予定。
また、アクセラレーテッド コンピューティングや創薬のためのAI に関するワークショップや技術トレーニングも提供される予定だ。
AIとHPC で創薬研究を活性化
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前出の阿部氏によると、日本の製薬業界は長年、ドラッグ ラグに悩まされてきたという。この問題は、COVID-19 のパンデミック時におけるワクチンの開発競争で改めて注目された。
国内の製薬会社は、この問題を解決するための施策の一つとしてAIの導入を挙げており、AIは業界の医薬品開発パイプラインを強化、加速するための重要なツールと捉えている。
そんな創薬のためのAIモデルのトレーニングやファインチューンには、Tokyo-1スーパーコンピューターのような膨大な計算リソースが必要。本プロジェクトの第一段階として、NVIDIA H100 Tensor コア GPU を8基搭載したNVIDIA DGX H100システムが10台以上導入される予定だ。
DGX H100は、強力なNVIDIA Hopper GPUアーキテクチャをベースとしており、生物学や化学のためのジェネレーティブAIモデルを含むTransformerモデルの学習を加速させるために設計されたTransformer Engineを搭載している。
プロジェクトの拡大に合わせて、このシステムにさらにノードを追加する予定のゼウレカ ゼウレカ 研究開発部 Product Engineering Managerの牧口 大旭氏は次のように述べている。
「昨今のAI分野の隆盛の裏では大規模学習による飛躍的な精度向上が確認されてきました。学習量が一定規模を超えた段階で予測精度は飛躍的に向上しますが、その為にはこの領域に到達できる計算力が必要になってきます。Tokyo – 1 は、このような障壁に対処し、日本でデータ ドリブンな AI 創薬に取り組み、日本の製薬業界のさらなる発展につながるよう、ユーザー企業を支援して参ります」
Tokyo-1上でNVIDIA BioNeMoソフトウェアを使用することにより、研究者は、タンパク質構造予測、低分子化合物の生成、骨格推定などの用途で、最先端のAIモデルを数百万、数十億のパラメータに拡張することができるようになるという。
Tokyo – 1 が日本の製薬企業と世界を結ぶ
すでに日本の複数の大手製薬会社が、Tokyo – 1 を使って創薬プロジェクトを前進させる予定だ。
東京に本社を置くアステラス製薬は、研究開発や製造・販売など、バリューチェーンのあらゆる領域においてデジタルトランスフォーメーションを推進することで、患者にとってのアウトカムを最大化し、医療シーン全般のコストを軽減できるソリューションの開発を積極的に進めている。
Tokyo – 1 では、分子シミュレーションの研究を加速させるほか、NVIDIA BioNeMo ソフトウェアを通じて、ジェネレーティブ AI のための大規模言語モデルによる研究にも取り組む予定だ。
第一三共は、Tokyo-1を利用して、AIと機械学習を完全に統合した創薬プロセスの確立を目指すとしている。小野薬品工業は医療ニーズの高いがん、免疫、神経およびスペシャリティ領域を創薬の重点研究領域に定めているという。
三井物産は、製薬業界だけでなく、日本の医療機器大手や国内スタートアップにもTokyo-1を開放するほか、NVIDIA Inception プログラムのメンバーである世界中のヘルスケア スタートアップが開発した AI ソリューションをTokyo-1のユーザー企業が活用できるよう、連携を図ると説明している。
関連情報
https://nvidianews.nvidia.com/
構成/清水眞希