年配の上司や顧客など、年上の相手から「よしなにお願いします」「以後よしなに」と言われ、戸惑った経験はないだろうか。ビジネスシーンでも時々耳にする「よしなに」という言葉。挨拶の一種だろうかと見当を付けてはいても、きちんとした意味を知らない人は少なくない。仕事相手の言いたいニュアンスを正確に汲むためにも、使われる場面や簡単な言葉の由来は押さえておいて損はないだろう。
そこで本記事では、「よしなに」の言葉の意味と語源、正しい使い方について解説する。
「よしなに」ってどういう意味?由来は?
「よしなに」とは、「よろしく」「ちょうど良い具合に」を意味する副詞。「よろしく」よりも改まった表現として使われることが多く、漢字で「良しなに」と書く場合もあるが、一般的にはひらがなで表記する。
「よしなに」は古事記を語源とする説が有力
やわらかい言葉の響きから「よしなに」を方言の一種と思っている人もいるだろう。しかし、言葉の由来を辿ると、特定の地域の方言ではなく、古事記(日本神話)の中の説話を語源とする説が有力だ。
古事記に登場する女神 木花之佐久夜毘売(このはなさくやびめ)が、三つ子を出産した際、赤ん坊のへその緒を4人の信濃(現在の長野県)の県主に求められたことから、3つしかないへその緒を4人でうまく分けてほしいという意味の言葉「四信濃(よしな)」が生まれ、「よしなに」の由来になったと言われる。
「よしなに」という言葉は、江戸時代の人形浄瑠璃『心中刃は氷の朔日(しんじゅうやいばはこおりのついたち)』近松門左衛門作にも登場し、日本語の古語・和語として古い歴史を持つ。
「よしなに」の使い方と注意点
古い歴史を持つ「よしなに」だが、言葉を使う場面・相手によっては不適切な表現となってしまうケースがある。「よしなに」を使う場合の注意点や、具体的な使い方も知っておこう。
「よしなに」のみでは敬語にならない
「よしなに」は改まった表現ではあるものの、言葉それ自体に敬語の意味はない。そのため、「どうぞ、よしなにお願いいたします」という具合に、何らかの丁寧表現を伴わないと、相手に尊大な印象を与えてしまいかねない。
また、「自分自身の考えで良いように取り計らってほしい」という意味を持つため、上司や目上の立場の相手に対しては使わない方が無難だ。
具体的な指示とセットで使うのがベター
例えば、部下や後輩に「よしなに頼む」と言えば、「適当にうまくやってほしい」というニュアンスを持つ。ただし、相手に具体的にやってほしいタスクがある場合は、その指示を明確にしておかないと仕事に支障が出やすい。「よしなに」は、あくまで挨拶語の一種と捉え、具体的な業務の指示とセットで使う方が良いだろう。
世代によって使用頻度と認知度に差がある
「よしなに」はSNS上でも度々話題となる「#おっさんビジネス用語」の一つとして知られている。一般的には、中高年世代に「よしなに」の使用者が多く、若年世代では使う人が少ない。ビジネスにおいて改まった言葉遣いが必要とされる場面は、中高年世代の方が多く経験しているため、こうした使用頻度と認知度の差は、半ば必然のものと言えるだろう。
とはいえ、若者から「おっさん認定」されることが気になるというビジネスパーソンは、幅広い年代に通じる言い換え表現を覚えておくのもおすすめだ。
「よしなに」を使った例文
・以後よしなにお付き合いいただければ幸いです。
・どうぞ、よしなにお願いいたします。
・この件は、よしなに取り計らってくれ。
・大事な取引先だから、よしなに頼むよ。
「よしなに」を別の言葉で言い換えるなら?
「よしなに」の類語や言い換え表現を知っていると、世代の異なるビジネスパーソン同士でもスムーズなコミュニケーションを取りやすいはずだ。
「よしなに」の類語や言い換え表現
「よしなに」を「よろしく」の意味で使用する場合は、そのまま「よろしく」で足りるケースが多い。
・よしなに頼むよ。→よろしく頼むよ。
一方、「ちょうど良い具合に」の意味で使う場合は、「適宜」「適切に」「しかるべく」「相応に」などの言葉が該当する。
・よしなに取り計らう。→適宜取り計らう。適切に取り計らう。しかるべく取り計らう。相応に取り計らう。
「よしなに」は、「問題が起きないよう上手に対処してほしい」というビジネスではありがちな場面を端的に言い表す言葉と言える。複数の言い換え表現を知っておくことで、より幅広い世代と、「よしなに」の持つ微妙なニュアンスを共有できるのではないだろうか。
文/編集部