OISTの運営費を内閣府が賄う理由
OISTへの経済支援は手厚く、学生は授業料や生活費を含めて、経済支援として年間約300万円が支給される。教員の研究に対しても、過去の業績に応じた金額で5年間の研究費を保障しており、5年後に学外の専門家からなる評価委員会から研究成果の厳しい審査を受ける「ハイトラストファンディング」という仕組みを採用している。
優秀な人材を集める原資となっているのは、国の沖縄振興予算だ。日本と世界の科学技術の発展に貢献し沖縄の自立的発展に寄与する目的で、世界的な科学者を集めて科学技術の研究・教育をする機関を設立した経緯から、運営費や施設整備費のほとんどは内閣府を通じて予算配分される。
科学技術の発展には欠かせない“基礎研究”と呼ばれる長期的な視座が必要な研究では、研究成果が経済にいつ効果を表すのかが読めないため、私立大学や大手企業のように短期的なゴールが明確に必要な民間での研究は難しいという。OISTでは、イノベーションの礎となる基礎研究も積極的に行っており、こうした研究に国が支援を行うこと自体が、日本政府の科学技術力向上に対する意欲の大きさを表しているとも言える。
「絶滅したヒト科のゲノムと人類の進化に関する発見」により大きな貢献を行ったとして、2022年のノーベル生理学・医学賞が授与されたスバンテ・ペーボ氏。ペーボ氏の研究も“基礎研究”に類するもので、私たち人類が生き残った秘密を絶滅したネアンデルタール人と現生人類を比較して探ろうとしている。(OIST提供)
「OISTで取り組んでいる質の高い研究の成果からイノベーションが萌芽して、新しい産業が沖縄に生まれたり集まったりして経済成長していくことで、沖縄振興に貢献することにも力を入れています。開学より既存の国立大学とは異なるアプローチから世界最高水準の研究大学を目指していますが、研究分野間の融合といったイノベーションの芽が生まれやすくなるよう、クオリティの高い研究を続けつつ規模の拡充をしていくことが当面の課題です」(大久保氏)
卒業生の中には、5年間過ごす内に日本に留まって研究したいと考えるようになったという人が増えてきているという。また、沖縄出身の学生もOIST内で活躍しているそうだ。世界で戦える研究者としての力を持った人材が沖縄で育まれつつ、優秀な科学者を沖縄に引き寄せるハブのような役割を果たしている。
少数精鋭で優秀な人材が集まるOIST。今後規模が拡大していけば、科学技術の最先端を学べる場所は沖縄にある、という共通認識が世界に広まるかもしれない。
文/清談社・小森重秀