楽天モバイルの料金は安すぎた?
法林氏:法人プランは値段を出しているけど、個人向けプランに対してどういう差別化をしてあの値段なのか、と思うところもあるじゃないですか。
石野氏:個人向けプランよりもちょっと高いんですよね。上限を比べると、200円とか300円くらい安いけど、下のプランは割高なんですよ。
法林氏:その代わりに何をしてもらえるのかが明確じゃない。サービスに差があるのかないのかがわからないよね。例えば、端末が壊れたらすぐ持ってきてくれるというような施策が、あるのかどうか……
石野氏:一方で、ドコモ、au、ソフトバンクは、法人契約を相対取引でやっているので。
石川氏:3社は、表向きは個人と同じ料金プランになっているけれど、法人向け料金プランはあってないようなもので、いくらでもカスタマイズされる。ただ、楽天モバイルもそうするのかは、わからない。
石野氏:大手3社は、表のメニューとして個人向けと同じようなプランしか出していない。僕みたいな1人法人がショップに行くと、そのメニューが出てきて「じゃあこれを契約してください」って言われるんですけど、これが大企業で1000回線、2000回線契約しますということになると「1回線あたりの料金は半額で……」といった話になるわけです。
石川氏:ドコモにかつてあったシェアプランのように、データ容量まとめて○GBを社員全員でシェアする、みたいなプランを作るとかね。
房野氏:楽天さんと付き合いがあるところは小規模な企業が多そうですが。
石野氏:小さいところだと表のプランを契約する。他社も割引きのある相対プランは出さないと思うので、楽天モバイルには狙い目だったりします。
法林氏:やり方次第で、うまく契約を取っていけるはずですよ。ドコモ、au、ソフトバンクの営業では行き届かないところに行けるわけです。かつ、何をするためにどういう業務が必要なのかっていうことは、楽天の各支店の営業の人たちは、それぞれの出店者を個別に回っているので、よく知っているはずです。だからできると思うんだけど……この2年、3年の間、施策してこなかった。
石川氏:それ、ドコモのMVNO時代から、やっていたって話も聞くんですよ。ただ、プランがなかったから、取りこめなかったのかもしれない。また、なんだかんだ言って、楽天市場に出店している店舗数は2万くらいなんです。1法人が10回線契約しても20万か、みたいな。
石野氏:楽天モバイルの法人プラン料金を見ると、確実にARPUは上がるようになっているんです。1番下のプランでも今の平均値より高いので。やっぱりARPUを上げたいんだなっていう、企業の願望がすごく伝わってきます。
石川氏:楽天モバイルは料金を安くしすぎたんだろうな。
石野氏:そうですねぇ。いきなりデータ通信無制限はやるべきじゃなかったんじゃないかなって気は、やっぱりしますね。無制限って最後の切り札なので。
法林氏:例えば、楽天市場でたくさん買い物をして、楽天カードで毎月結構な額を支払って、楽天証券や楽天銀行にこれだけ残高があるような人、そういうプレミアム会員は無制限です、というのなら理解できるんですよ。そうじゃない、広くあまねく、みんな無制限という設計にしてしまった。
石川氏:通信の民主化ですよ(笑)
石野氏:100GBまでの料金プランで良かったんじゃないかなぁって気がしています。100GBでも十分インパクトがあるし、もう一段階上に無制限を設定する余地が残るので。
石川氏:月額料金が4980円か5980円くらいで、通信量が無制限だったら勝負になったかもしれないなぁ。
法林氏:楽天モバイルがサービスを開始した当時の3キャリアの無制限プランは、6000円~7000円くらいだった。だとしたら、5000円を切るくらいでも十分勝負ができていたと思うんですよ。
プラチナバンドの基地局建設コストは安い?
房野氏:ところで、楽天モバイルは結局、プラチナバンドをもらうのでしょうかね。
石野氏:ドコモ案の3MHz×2じゃないですか。
石川氏:ドコモ案でしょう。
石野氏:あれが1番、波風立たない。
石川氏:すぐ使えるし。
房野氏:楽天モバイルがプラチナバンドでサービスを開始すると言っているのは2024年でしたね。
法林氏:ドコモ案と言っていますけど、ドコモの親会社の親会社が財務大臣ですからね。
石野氏:国!(笑)
法林氏:間接的に国営ですからね。国が「楽天モバイルにはここの周波数を与えよう」と言っているみたいなものですから(笑)
房野氏:実際、いつぐらいに、もらえるようになるんですか?
石野氏:今、急ピッチで技術検討を進めています。技術検討って、普通はあんなに早くしないんですよ。
房野氏:プラチナバンドを獲得したとして、本当に基地局建設は三木谷さんが言うようにコストがかからないものでしょうか。
石川氏:いやいや、あれは間違ってる。
法林氏:お金はかかりますよ。
石野氏:でも、決算会見は投資家向けの意味もあるので、その場で言わないと……。
石川氏:本当は「これくらいかかる」って言わないとダメですよね。
法林氏:そう、ダメ。
石野氏:お金はかかるんですよ。
石川氏:今の楽天モバイルの基地局にもう1つプラチナバンドのアンテナを付けるのって、構造的に難しいんじゃないかなって思ったりする。
法林氏:楽天モバイルが持っている1.7GHz帯とプラチナバンドは波長が違う。プラチナバンドの方が波長が長いので、アンテナも基本的に長く、大きくなるはずですよ
石川氏:既存キャリアが使っている、長くて、色んなバンドに対応するアンテナがあるんですが、それに付け替えなくちゃいけないような気がする。1.7GHz帯用のアンテナはお弁当箱型じゃないですか。でも、1.7GHz帯とプラチナバンドに対応した筒型のアンテナになるので、そうなるとたくさんアンテナを取り替えなくてはいけなくなるような気がする。
法林氏:周波数の特性が違うので、位置も考えないといけない。昔に比べればシミュレーションもしやすいけど。楽天モバイルは足りないところをプラチナバンドでカバーすると言っていますね。
石野氏:1.7GHz帯のアンテナって結構低いところに付いている気がする。プラチナバンドって高さを取って、グワーっと電波を吹かないといけない。
房野氏:プラチナバンドのアンテナはビルの上にあるイメージですよね。
石野氏:精査していったら、「あれ、思ったより置けないぞ」となり、追加で建てなきゃいけない場所が増えそう。ただ、スピード感で言うと、今、JTOWERがドコモから鉄塔をいっぱい買い受けている。「そこに載せさせてください」といえば、元々プラチナバンドを吹いていたようなところに楽天モバイルも置ける。その辺はやりやすくなっているんですけど、「お金がかからない」というのはどうなんだろうな。確かに安くはできます。一旦JTOWERが買い取って、楽天モバイルが載ってくれば、既存キャリアと案分できて安くなるので。多少はコストカットになると思うんですけど……プラチナバンドだったら、そこまでたくさん基地局数はいらないところもありそうなので、まぁ、滅茶苦茶かかるかと言われると、かからないとは思うんですけど……って感じですね。
楽天シンフォニーの海外事業に期待
房野氏:あと、お金を稼げそうな話だと楽天シンフォニーですかね。
楽天シンフォニーUKオフィス
石川氏:楽天シンフォニーは、先日の決算会見で数字が出た。500億円くらい儲かったという話なので、あとはそれがどうなるかですね。三木谷さんは去年の段階で4000億円ぐらいまで売り上げる目処が立っているという話をした。楽天シンフォニーが4000億円稼いだら赤字もチャラになるくらいなので、それがどうなるのかですね。
房野氏:案件が実現してくれるといいですね。
法林氏:ドイツの1&1、あそこみたいなところが採用しているのでわかるように、既存のキャリアとは違う比較的新興の携帯電話会社がサービスを始める時には、楽天シンフォニーのシステムは結構いい選択肢なんでしょう。問題は、それを運営する技術。タレック・アミン氏ほどではないにしても技術者が必要なところがある。「設備を持ってきました、はい、全部がちゃんと動きました」といった簡単な話ではない。また、楽天シンフォニーと同じことをほかの会社もやってくるはずなので、それと戦っていけるか。今度はスケールメリットの問題が出てくる。エリクソンを通して全世界でやりますって他社に言われたら勝負にならない。
石野氏:そこなんですよね。エリクソンやノキアとかが、いつ、楽天シンフォニーと同じようなことをやり始めるか。ただ、様々なベンダーの機器を組み合わせるOpen RANなので、パーツ売りができるのが魅力。ニュースにも出ていましたが、Open RANは国策になり始めているというか、楽天モバイルとドコモがOpen RANでイギリス企業と連携するという話がありますし。
房野氏:そうでしたね。珍しい組み合わせだと思いました。
石野氏:ドコモも楽天モバイルもOpen RANを積極的にやっている。ドコモは基地局設備に1社、2社の通信ベンダーの影響を受けたくないという考えが強くて、Open RANに初期段階から取り組んできています。
石川氏:去年のMWCの時に三木谷さんも言っていたけど、結局、楽天にとって国内の携帯電話事業はテストマーケティングみたいなものですよ。本命は楽天シンフォニーなんじゃないかなと思う。「日本に500万契約で動いているネットワークがありますよ、だからみなさんの国でもどうですか?」という売り方をしている。三木谷さんはよくAmazonに例えて、「Amazonはインターネット通販をやっているけどAWSで稼いでいる」という言い方をしている。楽天シンフォニーで稼ぎたい、いくら稼げるのかってところですね。
……続く!
次回は、MWC2023について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子