ドコモ、楽天モバイル、MVNOはどう絡む?
房野氏:今回はKDDIとソフトバンクでサービスを提供するという話ですが、NTTドコモ、楽天モバイルはどうなるのでしょうか。
石川氏:NTTの島田さんに聞いたところ「話し合いはしているので、いずれは提供できると思う。具体的な日程は未定」とのことでした。ドコモの井伊さんの発言であれば可能性は高いですが、島田さんの発言をどこまで信じていいのかはわかりません。
日本電信電話株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 島田 明氏
株式会社NTTドコモ 代表取締役社長 井伊 基之氏
法林氏:正直信憑性は低いと思うよ。NTTグループとして、他社のネットワークと何かをするというのは、揉め事の要因。予想だけど、まずはKDDIとソフトバンクが先行して、それぞれが回線数を売るというだけの話になると思います。
房野氏:デュアルSIMサービスでの契約でも、回線数の1つとしてカウントされますよね?
法林氏:もちろん。電話番号を売っていますからね。1つメリットがあるのは、例えばKDDIで契約しているユーザーがデュアルSIMサービスに申し込む時、個人情報をそのまま持っていけるという点。本人確認や口座振替が楽になるかも。
石野氏:オプションのような扱いなので、支払先が増えるわけではありません。楽といえば楽ですね。期待しているのは、SMSも送信できるとのことなので、障害発生時には、予備回線に通知を流してくれたりすると便利かな。
法林氏:そう考えると、「障害発生時にはこの番号にSMSを送る」という制度を作るだけでいい気もするけどね。
石川氏:それは我々みたいに複数回線を契約している、珍しい人側の話ですよ(笑)。デュアルSIMサービスは、これまで1回線しか持っていなかった人に、もう1回線持ってもらおうというサービスですから。
ユーザーにとっては、いざという時に安心のサービスではありますが、納得がいかないのはMVNO各社じゃないですかね。今まで頑張ってeSIMなどを売ってユーザーを獲得してきたのに、そんなことをされたらたまらない。やるのであれば、MVNOにも開放してほしいといっています。
石野氏:そうなりますよね。mineoも2月22日から、月額250円でドコモ、au、ソフトバンクの3回線を選べる「マイそく スーパーライト」の提供を開始しています。エコノミーMVNOとしてドコモが売ればいいのにとも思いますが……。
法林氏:最終的に話をまとめると、以前も話が出たように「3社がpovoをやればいい」という話に落ち着いちゃうよね。
デュアルSIMサービスの利用に端末の制約はある?
房野氏:デュアルSIMサービスを利用するにあたって、スマートフォンなど端末側の制限はなにかありますか?
石川氏:前提としてデュアルSIMに対応していないといけません。DSDV(2回線同時に待ち受け)は必須ではなくて、2回線登録しておいて、いざという時に切り替えるといった使い方でも大丈夫です。
石野氏:同時待ち受けはバッテリー消費にも影響があるので、そこは要検討ですね。
法林氏:スマートフォンのデュアルSIM対応が当たり前になったのはつい最近なので、意外と使えない端末は多いから、気をつけないと。
房野氏:サービス提供が始まっても、すぐに全員が利用できるというわけではないということですね。
石川氏:結局、「iPhoneがいいよね」となりかねません。
石野氏:あとPixelですかね。ただし、常時待ち受けをオンにする必要はないので、スマートフォンの本体に挿さず、必要な時のためにSIMカードを持ち運ぶのもOKです。
石川氏:そんな人なかなかいないよ(笑)
法林氏:通信障害が発生して本当に困るのは、仕事用に使っている人。KDDIとソフトバンクは、ビジネスユースをメインに据えて売っていきたい。法人需要に加えて、会社の業務のために個人回線を使う人が最初のターゲットになると思います。
房野氏:法人契約がメインになるということですか?
法林氏:もちろん個人でも契約できるけれど、メインの需要は、〝仕事で使う人〟になるかな。
石川氏:BCP対策(事業継続計画:テロや災害、システム障害など危機的な状況下でも、業務が継続できる用意をすること)を考える人がメインターゲットですね。
石野氏:結局、デュアルSIMサービスの料金はいくらくらいになりますかね。
石川氏:300円くらいじゃない?
法林氏:そんなもんだと思うよ。MVNOをメニューに加えろというのは、その通りだと思う。なんなら、auショップでドコモのエコノミーMVNOを売ればいいとすら思うよ。
石川氏:そういう話になってくるかもしれませんね。スペインではキャリアショップでMVNOを売るのが当たり前だったりしますから。
法林氏:ただし、そういう国では〝同一ネットワークのMVNO〟を売るのが基本。もし日本で違うネットワークのMVNOをキャリアが販売するとなれば、それはそれで面白い。
石野氏:少し思ったのは、結局MVNOユーザーであっても、通信障害発生時には巻き込まれるし、楽天モバイルも通信障害が絶対に起こらないわけではない。この人たちは予備回線がなくていいのかという議論にもなります。
房野氏:災害時には、4キャリア全部が繋がらなくなる可能性もありますよね。
石川氏:あります。
石野氏:東日本大震災の時には、東京でもウィルコム以外つながらなくなりましたよね。
房野氏:つまり、完全な保険というわけではないんですね。
法林氏:そうだね。さっき石川君がいった通り、BCP対策が基本。あくまで「仕事が継続して行えるように」というサービスです。
石野氏:通信障害保険といってしまうと、なんでお金を取るのかという話になりますからね。災害の場合は、基地局レベルの話になってしまって、一帯がダメになってしまう可能性があるので、そこにはあまり期待ができないと思います。
石川氏:基地局も各キャリア用にシェアされている場合があり、1本の基地局にまとめられていたりするので、その1本が倒れたら各社同時につながらなくなることも考えられます。完全に対応しようと思ったら、衛星通信といった話になってきます。
房野氏:iPhoneはアメリカやカナダなどで、衛星経由の緊急通報サービスを開始していますが、日本では使えるようになりますか?
石川氏:聞いたところによると、日本のユーザーが緊急通報を発信した時に、それを受け取って、警察や消防に伝えてくれるセンターさえあれば開始できるとのことです。
……続く!
次回は、楽天モバイルの法人プランについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦