「代替(だいたい)」や「何卒(なにとぞ)」などのように、日本語には簡単そうに見えて誤読が多い単語が存在する。「市井」もその一つだ。
そこで本記事では、「市井」の読み方や使い方を解説する。組み合わせる言葉によって意味が異なる単語であるため、ぜひこの機会に正しい使い方をおさえておこう。
市井の読み方と意味・由来
まずは、市井の読み方と意味、言葉の由来を確認していこう。
市井の読み方と意味
市井の読み方は「しせい」。「しい」と言い間違えないよう注意しよう。「井」には訓読みの「い」の他にも、音読みの「せい」という読み方がある。石油を採取するために掘る井戸のことを「油井(ゆせい)」というが、この場合も市井と同様に「井」を音読みする。
「市井」は人や家が多く集まり住むところを指す。より大きな意味を持つ「社会」や「世間」などの意味で使われることも多い言葉だ。
言葉の成り立ちと由来
「市井」の言葉の成り立ちは、「市」と「井」の2語に分けて考えると分かりやすい。
「市」という漢字には、「市場」や「都市」といった単語の意味からも想像できるように、多くの人が集まる場所という意味がある。「井」は、湧き水や川の流水を汲み取る場所を表す。
古代中国では、水を求めて井戸の周りに人が集まり、市を形成したことから「市井」という言葉ができたとされている。
英語表現
市井と似た意味を持つ英語表現としては、同じく人々が集まって暮らす場所を示す「town」があてはまる。また、庶民を示す英語表現としては、「ordinary people」「common citizen」 などが挙げられる。
市井の使い方
市井は、組み合わせる言葉によって言葉のニュアンスが変化する。ここでは3つの意味とそれぞれの例文を確認していこう。
市井は「世の中」を指す
市井を単体で使用する場合には、「世の中」や「一般社会」といった意味を表すのが一般的。「〜の中で噂になる」「〜の中で有名になる」のような形で使われることが多い。
ちなみに、「市井の埋もれ木」という慣用表現があるが、この言葉には「世間の知名度は低いが、才能を持つ隠れた実力者」という意味がある。
【例文】
「あの奇妙な事件は市井で一躍話題となった」
「人気のある政治家は市井の声に耳を傾ける」
「市井の人」は「庶民」を表す
「市井の人」は「庶民」や「一般市民」を指す。「の」を省略し、「市井人(しせいじん)」と表記されることもある。一般市民のことを「市井の人」と表すことで、上流階級とは異なることを強調することができる。文学作品などにおいて、一般人を示す言葉としてよく用いられる表現だ。
「市井の臣(しん)」も「市井の人」と同様の意味を持つ。「臣」は、主君に仕える家来を意味する漢字で、城に住む上流階級の主君と庶民は異なることを示す。
また、「市井の徒」も庶民を表す言葉だが、市中に住む、特に素行の悪い「ならず者」を指す点で前者の2つとは異なるため注意が必要だ。
【例文】
「お金持ちの彼女は市井の人とは違う雰囲気を持っている」
「主君であろう方が市井の臣の生活など想像できまい」
「市井に下る」は「上流階級から一般社会へ下る」様を表す
「市井に下る」は、官僚などの上流階級を辞める際に使われる表現だ。官僚の世界を上流階級とし、職を離れて一般庶民になることを「下る」と表現している。また、「市井に身を置く」も「市井に下る」と同様の意味を持つ。
ちなみに、「市井に生きる」「市井に暮らす」「市井の生まれ」といった表現も存在するが、これらの慣用句は一般庶民として生活をすることを指す。この場合は、以前、上流階級だったかどうかに関わらず使われる。
【例文】
「彼は政治の世界を離れ、市井に身を置くことにした」
「私は市井の生まれなので、質素な環境には慣れている」
市井の類語
市井は、「大勢の人々が生活しているところ」という意味を持つため、「巷(ちまた)」や「町」と類語関係にある。もう少し大きな枠組みの「社会」や「世の中」も市井の類語だ。
また、「市井の人」とすると「庶民」を表すため、「世の中の人」「大衆」「一般市民」なども類語となる。
文/編集部