秒の再定義
生活の基準である〝1秒〟の長さが2030年に再定義されるのをご存じだろうか。
「そもそも1秒は地球の自転1回転を基準に1日の1/8万6400時間と決められてきました。しかし、1960年頃に、地球の自転が速くなったり遅くなったりしていることがわかり、より高精度で誤差の少ないセシウム133原子を採用した時計が開発されます。1967年には『セシウム133原子が91億9263万1770回振動する時間を〝1秒〟とする』定義が生まれました」と、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の井戸哲也・時空標準研究室長は話す。
半世紀が経過し、レーザー光による光格子に閉じ込めた中性原子を利用する光格子時計が完成。セシウムでは16桁が限界だった測定が、レーザー光を用いると18桁まで可能になったことから、2030年に秒を再定義できるよう準備をすることになったのだという。
「生活に影響が出ることはありませんが、将来的には、例えば、人工衛星に搭載される時計もより高精度になるため、GPSを使ったカーナビやスマートフォンの位置情報がより正確になる可能性もあります」(井戸さん)
秒の再定義は研究者の叡智の結果によるものではあるが、日常生活でもGPSを使ったサービスが増えていることから、長期的に見ると通信の快適化などにつながりそうだ。
国際度量衡局(BIPM)
フランスにある、長さ、質量、時間といった度量衡の国際的な標準化団体。秒の再定義の会議もここで開催もし、光格子時計に用いる原子の採択や、切り替えの日程などが決定される。
ストロンチウム光格子時計
ストロンチウム原子を使いNICTが開発した光格子時計。原子にストロンチウムが用いられることは決定しないが、精度は極めて高く、現在のセシウム原子時計の時刻校正に使われている。
■ 日本標準時と協定世界時の時刻差(ナノ秒)
標準時の生成で光格子時計が1秒間の長さを正確に評価し、その結果、標準時の進みを調整することで、日本標準時と協定世界時の時刻差が小さくなった。
取材・文/安藤政弘