TOKYO2040 Side B 第22回『NPOはDAOの夢を見るか?』
※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。
NPOがオープンであることの重要性
東京都では、委託事業に関する契約事務手続きに疑義があるということで、若年女性支援活動のNPO(非営利活動法人)が話題になっています。社会情勢から生まれた歪に鬱憤が溜まっており、不正の解決を声高に訴えるネットユーザーたちの間で、何らの事情があろうとも詳らかではない件を有耶無耶にすることはできないという機運が広がっていることを感じさせます。
契約事務手続き、規則抵触か 東京都の若年女性ら支援事業 – 産経ニュース
個人的に今回話題となっている件について、大手メディアがあまり注目していなかったことから、腫れ物を触るように扱うしかないのかな、こういうときこそ議会が機能して行政が腹を括ってくれないかな、と感じていたわけですが、今後、各地方に存在するNPOについて、疑義があれば住民によって監査請求が同様に起こるであろうことは予想できます。
しかしながら、度々の不正追及やそれへの対応は、とてもコストがかかり、追及する側もされる側も疲弊するものですので、普段からあらかじめ公正さを高めてオープンにしておこうという議論が各所で起こる流れになるのが自然に思えます。不正や不審は無いにこしたことはないですからね。
いずれにしても、一般の民間企業が決算やその発表によって活動内容を客観的に把握できるように、活動やその会計がオープンであることや、そうでなくとも助成金等を受けて活動する以上は厳密な監査を今まで以上に求められることでしょう。
誰が“それ”を担うべきなのか
NPOの活動は非営利ですし、その社会的な効果は必ずしも原価計算や時給換算といった数字をベースにしたコストパフォーマンスだけで語れるものではありません。もしそれで語り尽くせてしまうのであれば、民間企業が手がけてきちんと利益も出していけばよい話です。
聖域とされている分野で民間企業が利益を出すのは憚られるというのは、法によってルール化されているのでもない限り、単なる気の持ちようの話でしょう。資本主義社会が、カネになるならとにかくやる、というパワーで課題解決をしながら大きくなってきたことをルールによらず阻害する理由はないはずです。
さて、社会の改善を目指す強い意志を持つ活動家や、利益に着目した事業家など、何らかのパワーをもって行動しようという人が、必ずしも活動履歴の客観的な記録や会計事務が得意とは限りませんし、それに時間を割いてしまうことこそ損失であるという考え方もあります。
これは悩みどころですが、そういった人々に対して、会計の知識や事務作業能力を兼ね備えていることを前提としたり、不得手なところを無理に求めたりしてしまうと、そもそもの「なり手」がいなくなるおそれがあります。
かといって専門の事務員を置くことや厳密な監査を義務付けたとして、それらの対応で膨れ上がるコストを負担していくことは、そもそも助成金や寄付などを受けることを前提に成り立っている事業でどの程度可能なのか、という課題があります。
そういうときこそ、実際の活動や付随する事務を分解し、DXを推進すべきです。単なるデジタル化ではなく、課題解決も含めて変容を企図していく。人間が苦手なものであれば、システムにさせればよいですし、もちろんその段階でワークフローがグッと改善されるのが理想的です。
「DANPO」という未来予測
その一つの未来予測として、DIME本誌連載の小説『TOKYO2040』最新22話にて、NPOにDAOが適用された「DANPO(Decentralized Autonomous Non-Profit Organization、分散型自律非営利活動法人)」を登場させました。
DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自立組織)とNPOをかけ合わせてDANPOというわけです。
Web3でトピックとなっているDAOについては、以前このコラムで書かせていただきました。
この記事の終盤で、非営利であり資金の用途が明朗であることが求められる政治団体にこそDAOは向いているのではないかという仮説を書いたのですが、考えてみればNPOもまさに非営利ですし、デジタル上に組織体と管理の仕組みを置き、参加者は現実世界での活動に専念して時間や機動性を確保し、社会との接点を最大化することができます。
昨今の状況から市民からNPOに望まれているのは、組織における活動の企画立案とその決定が民主主義的であることや、なんらかの利害を背景とした中央集権的な存在が恣意的な運用をしないことにあります。
これは公金や寄付金を正しく使う観点でも求められることかと思います。
当然、現実のNPOをDAO化するには、社会的なコンセンサスと法改正が必要ですし、用いるトークンを適法に暗号資産取引所へ上場させることはもちろん、設立の審査や活動のチェックをする自治体がこれらに理解がなければ、何一つ動かすことができません。
「DANPO」を成立させるのに必要なのは、デジタルよりもまず価値観の共有
人は人でなければできないことに注力し、事務はデジタルに任せてしまう。DANPOを成立させるには組織の価値観を共有することと、それを社会と接続するための「ルールメイキング」をすることが重要になります。さきほど原価計算や時給換算という言葉を使いましたが、それとは違った、DAOとしてのトークンエコノミーに関するコンセンサスを進めなければなりません。
これは、DANPOによる活動の全てタスクをあらかじめスマートコントラクトによって記述しておき、直接活動をする参加者だけでなく、寄付をする人や機関、助成金を受けるのであればその審査機関すなわち自治体といった、全てのステークホルダーがあらかじめ承認します。この承認というのはシステムではなく社会的な手続きのほうです。法改正が必要となる部分ですね。
現在のNPO設立には、設立趣意書、定款、事業計画の作成などが必要で、それをもって設立申請をしますが、DANPOではこれらをスマートコントラクトに盛り込みます。準備段階からDXされるべきだと思いますので、発起人による会合や自治体への事前相談もオンラインで可能にし、自動的に議事録が残されたり、活動業種などNPOとして相応しものが定義されているかどうか、そしてスマートコントラクトの内容に抜け漏れがないかどうかなどのチェックは随時AIで行うのが良いでしょう。
トークンエコノミーの可視化でオープンでクリーンな組織を実現
DANPOならではのアプローチとして、DAOのトークンエコノミーがあります。ここで使われるトークンは、活動によって参加者に配付されたり、リアル社会との接続のために現金化やその逆をしたり、投票権として用いたり、参加者の活動評価をしたりと、様々な用途に用いられます。
その際に、単なる電子マネー的な使い方では意味がありませんので、トークンは発行(mint)の際に「暗号資産取引所で換金できるかどうか」「議決権があるかないか」などの属性について、システム上区別される必要があります。株式会社で議決権のない株式を発行したり、スマホゲームのポイントで有料のジェムと無料のジェムがあって買えるものが違ったりするのと同様ですね。
寄付者が寄付の証として受け取れるトークンには、換金もできず議決権も無いという設定も考えられますし、DANPOが開催するチャリティイベントに参加した人が受け取れるトークンは、Soulboundトークン(譲渡不能なNFT、ここでは記念メダルのようなもの)の性格を帯びていたほうが良いかもしれません。
こういったことを全て、事前に取り決めてスマートコントラクトにしておきます。もちろん、前述した以前の記事で触れたように、インターフェースはグループウェア状になると思いますので、ダッシュボードで活動の状況を随時確認できるようにすることで、トークンの流れも属性別にリアルタイムで可視化されます。
このあたりは、クラウド型の経理・会計サービスを使っている人はイメージできるかと思うのですが、こまめに帳簿をつけていると、月次の決算など一瞬で済んでしまいますよね。あの感覚です。出納や簿記の自動化とも言えます。
それと同様に、日々の活動をスマホなどで自動的に、あるいは参加者にとって簡便な方法で記録し、トークンの流通や、組織内外での必要物品の売買、トークンを換金しての入出金、議決など、DANPOで発生するすべての事項をデジタルに載せ、リアルタイムで処理していくことで、いつでも監査を受けているのと同じオープンでクリーンな状況を保つことができます。
あくまでDAOはツール
ということで、NPOとDAOを融合させることを考えてみましたが、こういう仮説を唱えるのは、DXの本質は「人間の活動」を最大化したいという願いにあるからです。Web3分野での様々な発明が、現実での課題解決にツールとしてどのように役立っていくか、これからも検討していきたいと思います。
さて、このWebコラムでは自治体の話に触れることが多いですが、行政とデジタルアイデンティティという切り口で、新刊の『日本が世界で勝つためのシンID戦略』にて、いろいろとお話させていただきました。3月29日に発売されますので、全国書店にてぜひお求めください!
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389106
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して雑誌DIME誌面で新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。
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