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『酌む』は日常的な動作や、表現に関係する言葉です。事件や事故を語る際にもよく登場し、読み方や意味が分からないと相手の真意を間違って受け取る心配があります。読み方や使い方をマスターするとともに、言い換え表現もあわせて覚えましょう。
読みにくい漢字「酌む」の読み方・意味とは?
『酌む』は現代でも使われる言葉で、特定の場面で使われることが少なくありません。同じ意味で他の漢字が使われるケースもあり、混乱しがちです。読み方や意味を覚えておくと、いざというときに慌てずに済みます。どんな意味を持つ言葉なのか、見ていきましょう。
「くむ」と読み、2つの意味を持つ
『酌む』は『くむ』と読み、『酌』は音読みで『しゃく』と読みます。意味は大きく二つに分けられ、一つは『酒を器についで飲む』で、もう一つは『内面を推し量る』です。
『酌』という漢字自体には『酒をつぐ』という意味があり、『お酌』や『晩酌』など酒に関連する場面でよく使われます。
内面を推し量るという意味の酌むは、慣用句に用いられることも多い表現です。推し量るとは、ある事柄について、似た事実を当てはめて推測する・見当をつけることを意味します。
「酌む」と「汲む」の違い
酌むと同じ意味で使われる漢字に『汲む』があります。主に酒をつぐ場合は酌む、酒以外の液体の場合は『水を汲む』『茶を汲む』のように、汲むの方を使うことが一般的です。
また汲むは、液体を汲み取る以外にも、内面を推し量るという意味でも使われます。酌むよりも汲むの方が読みやすいと感じる人もいるかもしれませんが、実は汲むは常用漢字ではありません。
常用漢字は一般に広く知られている漢字のことで、現代の国語を書き表す際の目安になるものです。主に、新聞や公文書などに用いられています。
参考:「常用漢字表」を知っていますか。―「常用漢字表」シリーズ①― – 言葉のQ&A – 文化庁広報誌 ぶんかる
「酌む」の英語表現
『酌む』を英語で表現する場合、意味によって異なります。お酒を注ぐ意味では『pour』や『serve』が適切です。「She poured sake for her friends.(彼女は友人にお酒を注いだ)」のように使えるでしょう。
一方、内面を推し量るという意味では『consider』や『sympathize with』が適しています。「He tried to sympathize with her feelings.(彼は彼女の気持ちを酌んだ)」などの表現が可能。このように、同じ『酌む』でも状況に応じて使い分けることが重要です。
「酌む」の慣用句・使い方を紹介
酌むは、単体で使われるだけでなく、二つ以上の言葉を組み合わせたひとまとまりの表現として使われることが多くあります。酌むが含まれる慣用句の使い方や、例文をチェックしましょう。
「酌む」の慣用句は主に2つ
内面を推し量るという意味で、酌むを使う場合、慣用句として表現されることが珍しくありません。代表的なものが、『意を酌む』と『事情を酌む』です。
意を酌むは、人の考えを尊重するときに使います。その人の気持ちを察して理解し、肯定的に受け取る場面で使用しましょう。
事情を酌むは、背景にある事情を把握した上で物事を考え行動するときに使用します。量刑を決める裁判でもよく使われる表現です。
ニュアンスは異なりますが、どちらの慣用句も相手を思いやる気持ちが含まれています。
「酌む」の使い方・活用方法を例文でチェック
酌むを使った例文を見ていきましょう。
例1:「飲む」という意味での使い方
- その人は「ああ、のどが渇いた」と言いながら酒を酌んだ
- 美しい月を眺めながら、酒を酌み交わすのが楽しみだ
容器に酒を入れるだけでなく、飲むという意味もあります。一緒に酒を飲む相手がいる際には、『酌み交わす』と表現しましょう。
例2:「物事を考える」という意味での使い方
- 亡くなった父の意を酌むなら、自分よりも兄が店を継ぐべきだと思う
- 約束を破った理由を問い詰めるべきだと思ったが、事情を酌んでこれ以上は追求しないことにした
- 事故が起きた経緯に、酌むべき事情はないと結論付けられた
相手の気持ちを考えて、物事を考える場面で使用します。酌むべき事情があるかどうかは、量刑を決める際に被告人に対してよく使われる表現なので、耳にしたことがある人もいるでしょう。
「酌むべき事情はない」と言われたら、立場を思いやって考えてみた結果、やむを得ない事情とは思えないと判断したという意味になります。
「酌む」の言い換え表現を3つ紹介
『事情を酌む』に近いニュアンスを持つ言葉は、バリエーションが豊富です。コミュニケーションを取る際に、相手の気持ちを推し量る機会は少なくありません。状況に合ったさまざまな伝え方ができると、人間関係の向上に役立ちます。
心情を酌む「斟酌」
『斟酌(しんしゃく)』は、相手の心情を汲み取ることや、遠慮することを意味する言葉です。ただ事情を考えてみるだけでなく、手加減をしたり控えめにしたりするニュアンスを出したいときに使用します。
『斟』と『酌』はどちらも、水や酒などを酌むという意味がある漢字で、もともとの『液体をくむ』という意味から変化したといわれています。
【例】
- 祖母は高齢なので無作法なことをするかもしれませんが、どうか斟酌していただきたい
- 自社のサービスを向上させるためにも、斟酌のない意見を聞かせてほしい
事情を鑑み刑罰を軽くする「情状酌量」
『情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)』の意味は、同情すべき点などを考慮し、与える罰を軽くすることです。明らかに悪い部分が多く手加減できないと判断された場合は、『情状酌量の余地なし』と表現されます。
裁判でのみ使用する専門用語というわけではなく、一般でも相手の過失を咎めるときなどに使用されることは少なくありません。
【例】
- 被告人まだ若く初犯であることから、情状酌量の余地があるとされ減刑された
- 二度目の違反ということで、今回は情状酌量してもらえそうにない
事情を考慮し寛大に扱う「手心を加える」
『手心(てごころ)を加える』の意味は、状況を考え寛大に扱うことや手加減をすることです。勝負事や、処分をする場面などで、用いられることがあります。
手心の『手』は手で何かをすることで、『心』は思いやりや情という意味です。事情を酌むと近い意味で、よく使用されます。
【例】
- 弟はまだ小さいので真剣勝負はせず、手心を加えてあげた
- 署長は自分の身内が容疑をかけられたので、捜査に手心を加えたのではないだろうか
構成/編集部