シニアLGBTQ+が安心して暮らせる場所を
フィリピンでは貧困に苦しむLGBTQ+シニアは少なくない。家族や地域から離れてマニラのような都会に出てきても、就職差別により職は限られる。今高齢の人たちが若かった頃はなおさらだ。
ラドラドスタッフのパトリックさんによると「フィリピンでは、特にゲイや異性装をしている人に対して、美容師やネイリストをしているという先入観があります。実際に美容業界で働く人は多いですが、他に選択肢がなかったケースも多い。
今でも就職差別や職場での差別はありますが、最近は多くの産業でLGBTQ+の人たちが働くようになっています。今後もその流れは加速するでしょう。でも教育の機会や職に恵まれなかったシニアのLGBTQ+は引き続き支援が必要です」
ラドラドは教育の機会や職がより少ない地方でも活動を行なっている(ラドラド提供)。
しかも、フィリピンでは、零細規模のお店で働く美容師やネイリストは正式な雇用契約や社会保障に守られていないケースが多い。
シニアではないがマッサージの仕事をしている40代のトランス女性は「コロナ禍で仕事が激減したし、働かなければ収入が即なくなるから本当に大変。今日の食料はすごく助かる」という。
「ゴールデン・ベキス」のメンバーで、会場の美容院でネイリストとして働く60代のドリーさん(下写真左から2番目)は、「給料は出ないしマニキュアも自腹だから生活はギリギリ。お客さんがつかないと全然利益がないのよ。でも子どもに頼って家にいるだけなのは嫌なの。
それにこの美容院は私たちのミーティングにも使うし、近所の人も立ち寄ることができる。私も大変だけど、他に困っている人がいたら助けたい」と話してくれた。
参加者全員で記念撮影。集まってつながること自体がとても大事だとメンバーらは話す。
「ゴールデン・べキス」はこうしたシニアLGBTQ+が安心して暮らせる共同住宅を設立することを目指している。しかしこの問題は注目度も高くなく、資金集めは難航しているそうだ。
ラドラドはフィリピン語でケープやマントを広げるといった意味がある。ロゴマークも大きな羽を広げて羽ばたく蝶のようなイメージだ。
全ての人が性指向や性自認にかかわらず自由に自分をオープンにでき、羽ばたけるようになるようにと、現場で地道に活動する人たちがたくさんいる。筆者も引き続きそうした人々の声を伝えていきたい。
文/福田美智子
フィリピン・マニラ首都圏と日本を拠点とし、市民社会・異文化理解・ジェンダー・農業などをテーマに執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員