ウィンウィンの地域連携プロダクトになった!
ビール醸造にかかるコストはどこから出るのか? というと、大麦、ホップなど主原料の材料費は羽田スカイブルーイングが負担し、ブドウの搾りかすや桜の葉といった副原料は各自治体が提供する。売り上げは羽田スカイブルーイングに入るが、その際、1本あたり100円が各自治体に寄付されるという仕組みだ。
自治体側からすれば、提供する副原料は、もともと規格外品だったり廃棄予定のものだったりと、原価は高くない。それが東京・羽田のブルワリーでクラフトビールになって、国内外のお客さんが買って行くのだから、ピーアール効果は大いに期待できる。まさに「ローリスク、ハイリターン」商品に人気は高まり、現在、「地域連携クラフトビール」醸造は順番待ちだという。
羽田イノベーションシティの羽田スカイブルーイング。この日はオリジナルの「ゴールデンエール」のほか、全国の人気ブルワリーのビールが8タップ。東京に来て初めて飲むクラフトビールがここ、という人も多いのでは。
一方、羽田スカイブルーイングにとってはどんなメリットがあるのか。
ブルワリーを運営する株式会社大鵬の大屋幸子代表は、2016年から大田区蒲田でクラフトビールが飲めるレストランを経営していた。その店では、大田区ゆかりの店や古くからある銭湯などとコラボレーションビールをつくって販売していた。もともと、「オリジナルのビールをつくることも大事ですが、地域のだれかと連携して相乗効果を生み出すことが楽しい。ビールの活用法に興味があります」という考え方の持ち主だ。
羽田イノベーションシティに出店するチャンスを得るも、コロナ禍に見舞われ「資金繰りがたいへん」な状況の中、「全国のいろいろな地域と新たなつながりができる」ことに価値を見出した。羽田スカイブルーイングには羽田空港発着のお客さんが、国内外から訪れる。ここに地域連携ビールが並ぶということは、日本各地のアンテナブルーバーにもなり得る。
「これまで9か所の地域とコラボしてきました。ゆくゆくは47都道府県すべてのコラボビールができればうれしい」と大屋代表と話す。
このように素材を提供する自治体側とブルワリー側、双方にメリットのあるウィンウィン関係で商品化できたことが、地域連携クラフトビール成功の理由だろう。今後、この中から定番化されるような、おいしいビールが生まれることも期待したい。
また、信用金庫の「よい仕事おこしネットワーク」は、クラフトビールのほかにも地域連携プロダクトを提案している。各地の農産物を長崎のカステラの老舗「菓秀苑・森長」で商品化したカステラプロジェクト。各地の酒蔵から出る酒粕を利活用する酒粕プロジェクトなど。自治体だけなく、メディア、大学など、多様な顔ぶれがそろう「よい仕事おこしネットワーク」は、新規事業やスタートアップにとっても利用価値がありそうだ。
羽田ブルーイングの店内。左のガラスの向こうがブルワリー。3月13日に仕込み式が行われた山口県長門市の「長門ゆずきち」は、副原料としてはポピュラーな柑橘類。「ペールエールかヴァイツェンか、考えどころですね」とブルワーの植浦恵介さん。
取材・文/佐藤恵菜