羽田空港から一番近いブルワリー「羽田スカイブルーイング」が各地の産物を使って醸造した 〝地域連携クラフトビール〟が好評だ。なぜ羽田のブルワリーが地方産の素材でビールをつくるのか。その縁を取り持っているのが、全国の信用金庫による「よい仕事おこしネットワーク」だ。
全国の信用金庫が形成する「よい仕事おこしネットワーク」を起点に生まれた地域連携クラフトビールは、これまでに9種類が発売済み。左から「ぶどうのそらエール」(福島県いわき市)、「陽光桜エール」(愛媛県東温市)、「いわきサンシャインエール」(福島県いわき市)、「キズナエール」(和歌山県)、「じんだんエール」(山形県長井市)、「山ぶどうエール」(山形県西川町)、「政子の情熱エール」(静岡県伊豆の国市)、「絆舞エール」(全国251 地域米)、「じゃがいもエール」(長崎県諫早市)。発売1〜2週間で売り切れる。
羽田イノベーションシティに生まれた地域連携ブルワリー
2023年3月13日、羽田空港近くの複合商業施設、羽田イノベーションシティにある「羽田スカイブルーイング」で、山口県長門市の江原達也市長が報道カメラに笑顔を向けていた。長門市名産の「長門ゆずきち」を副原料に使ったビールの仕込み式である。
長門市と羽田スカイブルーイングの間を取り持ったのは、全国の信用金庫が形成する「よい仕事おこしネットワーク」だ。
ビールの副原料に長門ゆずきちを選んだ理由を、江原市長は「食卓でおなじみの地元の味。焼酎に輪切りを添えるなど、居酒屋でも親しまれている。ビールでもおいしくいただけるのでは」と話した。
3月13日に「よい仕事おこしプラザ」で開かれた「長門ゆずきちエール」発表会。左から城南信用金庫の川本恭治理事長、山口県長門市の江原達也市長、羽田スカイブルーイングの大屋幸子代表、植浦恵介ヘッドブルワー。
醸造元の羽田スカイブルーイングは2020年7月、羽田イノベーションシティで営業を開始した。2020年7月といえばコロナ禍のまっただ中。そんな時期に、東京都大田区と羽田みらい開発株式会社の官民連携による複合施設、羽田イノベーションシティがオープンしていたのだ。
その一角に、全国の信用金庫が運営する「よい仕事おこしプラザ」が開設された。「よい仕事おこしプラザ」は、中小企業や個人経営者などからの、さまざまな相談窓口だ。その幅広いネットワークを駆使して大手企業との商談会、企業と企業のマッチングなど、融資相談にかぎらない相談事を受け付けている。現在、全国253の信用金庫を核に、約1万2300の企業団体、45の自治体、55のメディアや大学/学校などと連携する「よい仕事おこしネットワーク」を形成している。事務局を東京品川に本店を置く城南信用金庫が務める。
コロナ禍における中小企業をはじめとした小さな事業体の支援は、「よい仕事おこしプラザ」オープン当時の大きな役割だった。2020年7月、その足元で、羽田スカイブブルーイングがオープン早々に、時短営業などで苦境に陥っていた。「見過ごせなかった」と城南信用金庫の川本恭治理事長は振り返る。
城南信用金庫の職員がブルワリーを訪れると、ピカピカのタンクが3基、ブルワリーに鎮座している。お客が来ないのでフル稼動できずにいた。
「これ、ほかに使えませんか!?」
職員はブルワリーに、地方の産物を使ったコラボレーションビールの醸造を提案した。その一方で、連携する自治体に「地域の産物を使ってクラフトビールをつくりませんか?」と提案して回った。
「どの自治体も東京でピーアールできるきっかけを探しています。東京の、しかも空の玄関口、羽田でつくったモノには大きな魅力がありました」(川本理事長)
これに初めに手を挙げたのが、福島県いわき市の「いわきワイナリー」だった。かねてから赤ワインの製造工程で生じるブドウの搾りかすを有効活用したいと考え、地元のひまわり信用金庫に相談したところ、羽田スカイブルーイングでビールに使えないかという話につながった。そうして生まれたのが「ぶどうのそらエール」だ。
第1弾は2021年12月に発売された。タンク1本分、336本が2週間もしないうちに完売。そのほとんどが羽田スカイブルーイングの店内、福島県のアンテナショップで売り切れたという。
つづくは愛媛県の東温市の桜の葉を利用した「陽光桜エール」。その他、和歌山の梅を使った「キズナエール」、山形県長井市の秘伝豆を使った「じんだんエール」、長崎県諫早市のじゃがいもを使った「じゃがいもエール」など、ビールの副原料としてはかなり異色な素材が次々と羽田スカイブルーイングへ運び込まれては製品化された。これらがみな1〜2週間で売り切れる。300本前後の少量とはいえ、名も知らぬビールがこれほど売れるとは……近年のクラフトビール人気を物語る。