コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
「シズルワード」でワクワクさせる
まずはこちらの問題を考えてみてください。
【問題】
ニューヨークの博多料理店でのこと。「明太子」をそのまま直訳した「Codroe(タラの卵)」というメニュー名で提供したところ、注文がないばかりか「そんな気持ちの悪いメニューを載せるな」と大不評でした。ところが店主がメニュー名を変更したところ注文が殺到するようになりました。さて、どんなメニュー名にしたのでしょうか?
【答え】
「博多スパイシーキャビア」というメニュー名に変更した。その途端、オーダーが殺到。「シャンパンに合う」とニューヨーカーに大人気となった。
メニュー名で重要なのはやはり、食べたい気持ちが盛り上がるかどうかです。
「たらの卵(Cod roe)」という直訳では食欲がわきません。多くの人は「食」に関して意外と保守的なので、まったく聞いたことのない食材・味・調理法では食べたいと思わないのです。
そこで店主はメニュー名の変更を思いつきました。「キャビア」という名前を使うことで、これが魚卵であることを伝えるとともに、「高級」というイメージを付加します。そして「スパイシー」というワードを使うことで、味のイメージを持たせるとともに、「博多」という土地の名前を入れてその出所を明らかにしました。その結果、これらすべてが「シズル」(※)ワードとなって、お客さんに「食べてみたい」という気持ちをわき上がらせたのです。
※シズル…… もともとはステーキなどが焼ける際の「ジュージュー」という音を意味するがそれが転じて、商品における「人の感覚を刺激して食欲や購買欲をわかせる特長」のことを指す。
では、レストランなどではどのような言葉がシズルワードとなるのでしょうか。たとえばそこに「五感」を刺激する言葉が入っていると、人は食べたくなる確率が上がります。
例として、この5つです。
①味覚的シズルワード
味を連想させる単語。
(例) 「スパイシー」「スイート」「ビター」「ピリ辛」「甘酸っぱい」「ほろ苦」など。
②視覚的シズルワード
目で見たイメージを連想させる単語。
(例)「彩り鮮やか」「三色」「黄金」「たっぷり」など。
③聴覚的シズルワード
調理中や食べるときの音を連想させるような単語。
(例)「じっくりコトコト」「ぐつぐつ」「ざくざく」「ジュージュー」 など。
④嗅覚的シズルワード
料理の香りや風味など嗅覚を刺激する単語。
(例) 「だし香る」「かつお風味」「ごま風味豊かな」「ローズマリー風味」など。
⑤触覚(触感)的シズルワード
料理を食べたときに口の中で感じる単語。
(例) 「とろける」「なめらか」「濃厚」「サクサク」「パリパリ」など。
その他「季節感を表現する言葉」や「地名」などもシズルワードになります。
新メニューや新商品の人気が出ないときは、つい味や内容のせいだと思ってしまうかもしれません。ですが、そもそも内容がうまく伝わっていなければ、購買欲にもつながらないものです。
ここで紹介したように、飲食物の場合は、五感を刺激するような言葉を使ったメニュー名を再考するのも一案です。本当においしければ、それで注文は増えるはず。ただし、シズルワードの使いすぎは逆効果を招く場合もありますから、適度に効果的に使用するようにしましょう。
【まとめ】
五感を刺激するシズルワードが、相手をその気にさせる!
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。