コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
引き立て役のプランCを用意する
たとえばあなたが何かのサービスを提供するとき、【プランA】と【プランB】を提示したとします。このとき、おすすめと逆のプランを多く選ばれてしまうこともあれば、2つで迷った結果、どちらにも決めてもらえないというケースもあるでしょう。こうした事態を避けるためにはどうすればいいでしょうか。
そんなときはこうした状況を想定し、最初から「第3の選択肢(プランC)」を用意するのがおすすめです。うまくいけば【プランC】は、【プランA】と【プランB】を引き立てる効果も発揮します。
この引き立て効果(decoy effect あるいは「おとり効果」)で有名なのは、『予想どおりに不合理』などのベストセラーで知られる行動経済学者のダン・アリエリーの実験です。大学生に雑誌『エコノミスト』誌の定期購読を尋ねるアンケートで、アリエリー氏は次の3つの選択肢を提示しました。
あなたならどれを選びますか?
①web版の定期購読 59ドル
②雑誌版の定期購読 125ドル
③雑誌版とweb版の定期購読 125ドル
結果は、①16% ②0% ③84%でした。
ちなみに上記で誰も選ばなかった②を消して改めて二択で選んでもらうと、結果は、①68% ③32%に変わりました。すなわち3択の結果は、引き立て役の②があってこその結果だったわけです。「売上」ということで考えると、3択の場合と2択の場合とでは、大きな差になりますよね。
引き立て効果の例をもう1つ見ておきましょう。これはコロラド大学デンバー校のメン・リーと中国科学院の研究者たちが、中国の食品工場において、従業員たちの手洗いの場面で実験したものです。研究者たちは、普通の消毒用スプレーボトルだけを設置した場合と、とても使いにくいスクイズボトルをスプレーボトルと並べて設置した場合の、従業員たちの手の消毒率を比べました。すると、使いにくいスクイズボトルを並べたほうが、手の消毒率が大幅に増えたのです。つまり、使いにくいボトルが引き立て役になって、みんながスプレーボトルの消毒薬を使い始めたというわけです。
引き立て役があるかないかで、人の選択は大きく変わります。この性質をうまく使えば、「永遠に決めてもらえないループ」から逃れることができます。
「がんばっても決めてもらえない」が続くとさすがに落ち込んでしまうものですが、そんなときはこの「引き立て効果」をうまく使うといいでしょう。
【まとめ】
なかなか決めてもらえないときは、上手に引き立て役を使って決断してもらおう
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。