コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
好きかどうかの態度を曖昧にする
あなたは「自分に好意を持っている相手」と「自分に好意を持っていない相手」のどちらに魅力を感じますか? 多くの人は「自分に好意を持っている相手」により魅力を感じやすいでしょう。
では「自分に好意を持っている相手」と「自分に好意を持っているかいないかわからない相手」では、どちらにより魅力を感じるでしょう?
ハーバード大学のダニエル・ギンバート教授らがバージニア大学との共同研究で実施した実験をご紹介しましょう。オンラインデートの研究と称して、フェイスブックのプロフィールを見せることに同意した女子学生を3つのグループに分け実験をしました。まず他大学の男子学生4人のフェイスブックのプロフィールを見せます。そして、グループごとに次のように説明の仕方を変えます。
グループ① あなたのことをもっとも高く評価した4人です
グループ② あなたのことを平均的だと評価した4人です
グループ③ あなたのことをどう評価したかわからない4人です
その後、「彼らの魅力をどう評価するか?」という詳細なアンケートを実施しました。実はこの4人の男子学生のプロフィールは実験用に作られた架空のもので、どの女子学生にも同じものを見せています。
その結果、①と②のグループの比較では、①のほうが男子学生の魅力を高く評価しました。つまり女性は「自分に興味のない相手」よりは「自分のことに興味がある相手」に魅力を感じやすいということ。これは冒頭に説明したとおりで当然の結果と言えるかもしれません。
しかし驚くべきは、①と③のグループの比較でした。③のほうが圧倒的に男子学生の魅力を高く評価したのです。つまり、「自分のことに興味があるとわかっている相手」よりも「自分のことに興味があるかどうかわからない相手」により強い魅力を感じやすいということです。
不思議と言えば不思議ですが、これは「重要な結果や答えを知らされないままでいると人はその結果や答えがとても気になる」という人間の心理(ツァイガルニク効果)から説明できます。実際にアンケートからは、実験の間、女子学生の頭に一番浮かんだのは「自分のことをどう評価したかわからない男子学生たちだった」ということがわかっています。その結果、態度のわからない男子学生のことが魅力的に思えてきたのでしょう。
あなたも気になる相手がいたら「好きだという気持ち」を明確にせず、どちらかわからない曖昧な態度をとってみてはいかがでしょう? (もっとも、これは相手があなたのことをもともと魅力的に思っていなかったら効果がなさそうですが。)
【まとめ】
人は簡単にわかるものよりも、わかりにくいものに興味を抱いてしまう
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「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。