コピーライターとして、テレビやラジオのCMをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
「弱み」を認めてポジティブな言葉と結びつける
短所を長所とうまく結びつけることができたら、長所だけを並べるよりも大きな魅力になることがあります。
ドイツ・ビーレフェルト大学の社会心理学者ボーネル教授らは、あるレストランに関する次の3つの広告を作って、消費者からの評価を調べました。
①くつろいだ雰囲気のお店です(長所のみ訴求)
②くつろいだ雰囲気の店ですが専用駐車場はありません
(長所とそれとは関係のない短所を載せる)
③狭い店ですがその分くつろいだ雰囲気です
(短所とそれに関連した長所を載せる)
結果、一番評価が高かった広告は、③の「短所を長所に関連づけて載せた広告」でした。つまり、短所は長所と関連づけて訴えると、長所だけを訴えるよりプラスの効果が高くなるのです。
このテクニックを使うときのコツは、まず、誰が見ても明らかな欠点や短所を認めたうえで、それに関連づけられた「メリット」「長所」を述べるということです。
そこでちょっと次の問題を考えてみてください。
【問題】
1970年代、老しにせ舗ケチャップメーカー「ハインツ」は危機に瀕ひんしていました。なぜなら当時、ハインツのケチャップには、ガラス製だった瓶びんからなかなかケチャップが出てこないという弱点があったからです。他社がその弱点を攻めてきてシェアは急落。しかしハインツは、1行のキャッチコピーでピンチから見事立ち直りました。さてそのコピーとは、どのような内容だったでしょう?
【答え】
「ハインツのケチャップはおいしさが濃いので、瓶からなかなか出てきません」わかってほしいというコピーで広告キャンペーンを打った。
見事ですよね! このハインツのキャンペーンコピーも、最大の弱点を長所と関連づけることで、消費者に不便さを納得させたと言えるでしょう。
人に長所と短所があるように、どんな商品にも良い面と悪い面はあります。でもこの研究結果からもわかるように、弱点を長所に関連づけて伝えられると、長所がよりきわだって魅力が増すこともあるのです。
【まとめ】
人も物も、「弱み」を見せられたほうが魅力的に見える
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は?人を動かす伝え方50の法則」
著者/川上徹也
発行/株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表/コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『1行バカ売れ』( 角川新書)、『ザ・殺し文句』(新潮新書)など著書多数。海外へも広く翻訳されている。