DIME MAGAZINE
コピーライターとして、テレビやラジオのＣＭをつくったり、企業のブランディングを手掛けてきたコピーライターの川上徹也さんはうまく伝わらないのは、あなたの考えが間違っているからではなく、伝え方次第で、生じることのなかった誤解やすれ違いをなくすことができる、人はもっとわかり合うことができると言います。川上さんがハーバードやスタンフォードなど世界中の研究から、日常に取り入れやすいものを選んでまとめた伝え方の法則を、著書「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は？人を動かす伝え方50の法則」から一部抜粋・再構成してお届けします。
「予期せぬ形」をアレンジして伝える
たとえば昇給のとき、同じ報酬であっても、タイミングやもらい方によって人のモチベーションは大きく変わることがわかっています。
ダンカン・ギリクリストらハーバードビジネススクールの研究者グループは、報酬と仕事量の関係を調べました。実験ではデータ入力の仕事についた266人を、次の3つのグループに分け、次のような時給を定めました。
①時給3ドル
②時給3ドルで合意したあと、4ドルに引き上げ
③時給4ドル
研究者たちがそれぞれのグループの生産性を調べた結果、 ①と③は、時給に明確な差があるにもかかわらず、生産性の差はありませんでした。しかし②の生産性だけ違いました。なんと20％も高まったのです。時給だけで言うと③と同じであるにもかかわらず、です。
つまり、最初に安い時給だと思っていたのに、あとから予期せぬ昇給があったことにより、モチベーションが高まったということです。
報酬とモチベーションの関係は、その他、いろいろな要素で変わってくることがわかっています。
ボストン連邦準備銀行の研究部門で働く行動経済学者アナト・ブラシャは、職場で同僚の給料を知ることがその生産性にどのような影響を与えるかを調べました。この実験は被験者に単純な作業をしてもらい、その成果に応じて報酬を支払うというもので、次の2つのグループに分けて行われました。
A 単価40セント
B 単価80セント
両者は同じ作業をします。お互いの給料を知らない間は、生産性に大きな差はありませんでした。ところがお互いの給料が知らされるとどうなったでしょう？
そうです。Aのグループの生産性が著しく低下したのです。Bのグループに関しては、Aの報酬を知っても、生産性にほとんど変化はありませんでした。Aグループのメンバーは、同じ作業をしているのに、より高い単価をもらっているグループの存在を知って、モチベーションが下がったのです。
人の給料と比べて自分のほうが低いとわかるとやる気を失うなんて、正直でおもしろい結果ですよね。
あなたが誰かに「いい知らせ」を伝えるときは、「予期せぬ形」をアレンジして伝えてみてはいかがでしょうか。
【まとめ】
予期せぬ形でギフトを渡せば、モチベーションもより上げられる
☆ ☆ ☆
「最新の知見」や「新しい視点」のヒントが詰まった「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は？人を動かす伝え方50の法則」。やみくもに大きな声で叫んでも、伝わらない。相手に伝わるからこそ対話は成り立ちますし、そうでなければただのひとりごとになってしまいます。どうにかして、この気づきをわかりやすく役に立つ形で伝えられないかというところからこの本の制作は始まったそうです。伝え方を工夫することで、相手とのコミュニケーションがうまくいく可能性があるなら、手に取って学んでみる価値は十分あるのではと思います。
「面倒なお願いでも、気持ちよく相手に届く伝え方は？人を動かす伝え方50の法則」
著者／川上徹也
発行／株式会社アスコム
川上徹也
湘南ストーリーブランディング研究所 代表／コピーライター
大学時代、霊長類学や社会心理学の研究に没頭。世界中の論文との出会いを求めて図書館に通いつめ、狭いアパートの部屋を学術論文のコピーでいっぱいにして暮らす。「人の心を動かす」仕事に興味を持って、広告代理店に入社。大阪支社で暗黒の営業局時代を経て、29 歳で転局しCMプランナーに。しかしそこでも芽が出ず、会社を辞め何のあてもなく上京。フリーランスという名のフリーターをしながら通った広告学校の講師から、コピーライターとしての才能を見いだされ、TCC 新人賞を受賞。その後、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞などを多数受賞する。現在は、ブランドの魅力を物語にして伝える「ストーリーブランディング」という手法を確立し、企業や団体のマーケティング・アドバイザーとして活動。ジャンルの垣根を越えて、様々なものの魅力を伝え続けている。『物を売るバカ』『１行バカ売れ』（ 角川新書）、『ザ・殺し文句』（新潮新書）など著書多数。海外へも広く翻訳されている。
最新号
