エアコン、洗濯機、冷蔵庫をはじめとする日常生活に不可欠な家電について、未来の到来を予感させる新製品がこの1年余りで続々とリリースされている。それらの普及により、家電の各ジャンルはどう変わるのだろうか。識者2人と編集部タジリの座談会で紐解いていく。
──まずは、掃除機のトレンドと今後の見通しを教えてください。
藤山 例えばロボット掃除機は、ペットの排泄物やケーブル類といった障害物をカメラで検知し、回避するのがトレンドになっています。
倉本 ユーザーが使用するたびに記録されていく大量の映像を学習することで、今後さらに認識する対象物が増えていきそう。家の中を移動できる特徴を生かし、スマホとの連携で見守りができるような機能を実装する動きも進んでいます。
──そんなロボット掃除機では当たり前になりつつある「自動ゴミ収集」の機能が、スティック掃除機でも搭載されるようになってきましたね。
倉本 今後は吸引と水拭きの両方に対応する製品が増えそうです。現状では「本体が重くなる」課題がありますが、ロボット掃除機と同じように標準化すると思われます。
田尻 人やペットの毛が絡まない、ゴミ捨て時にホコリが立たない、といったメンテナンス性の良さも全体的に向上していますね。
藤山 そういう意味では、上位機種はサイクロン一択ではなく、紙パック式の採用が増えるかも。ゴミ捨てが楽だし、本体を軽くできてフィルターも詰まりにくいですから。
──洗濯機はどうでしょう。
倉本 個人的に評価しているのは、パナソニックの最新モデルです。洗濯を始めた時に表示される「乾燥が完了するまでの予想時間」が、AI学習でかなり正確になりました。
藤山 洗剤と柔軟剤の自動投入は、あると絶対に便利な最新機能のひとつ。今は上位機種のみですが、いずれは下位モデルにも搭載され、当たり前の機能になるはずです。
──エアコンはどうでしょう? 三菱電機では「人の気持ちを検知できる」最新モデルが話題です。
藤山 エアコンに関しては一時期の〝センサー競争〟は落ち着いてきています。違う温度の風を吹き分けて個々の人を快適にするよりも、部屋全体を快適にする方向性ですね。
倉本 ユーザーが何も考えなくても、AIで湿度と温度をいい感じにコントロールするのが、今のトレンド。コロナで在宅時間が増え、エアコンを常に稼働する家が多くなったので、さらなる省エネ性能も求められるようになってきました。熱交換器の効率を高めるために室内機も室外機もサイズが大きくなっています。
──冷蔵庫にもカメラやIoT搭載のモデルが増えてきました。
倉本 10年ぐらい前からカメラとAIを活用し、庫内の商品パッケージを認識してリスト化しようという動きがありました。しかし「国や地域ごとに商品パッケージが変わるので難しい」ということから「もう人間が写真を見て判断すればいい」と割り切ったことで、ようやく製品化されてきたわけです。また、視認性のいい冷蔵庫は管理のしやすさやフードロス低減につながることから、扉を透明にしたり、LEDの数を増やして奥までよく見えるようにしたりという工夫も進んでいます。
藤山 将来は「Amazonフレッシュ」をはじめとする生鮮食品の配送サービスとデータ連携することで、冷蔵庫の在庫管理が自動でできるようになるはず。AIの画像認識と併わせて、10~20年後には、それが当たり前になっているでしょう。
──調理家電では、かき混ぜ機能付きの電気鍋が増えています。各社とも方式が様々でおもしろいですね。
藤山 様々なタイプが出ているのは、シャープの『ホットクック』の技術特許を回避する必要があるからです。
田尻 そういう背景があるんですね。調理家電でいえば、スマホとの連携が着実に進んでいるように思います。
倉本 調理家電って、実は本体内蔵のメニューが増えるほど、操作が煩雑になるんです。そこでパナソニックの『マイスペック』シリーズの場合、レシピ自体はアプリで選び、使うものだけを本体に送信してカスタマイズできるようになっています。理にかなっているし、ほかのメーカーも追従してくるんじゃないかな。
藤山 ちなみに電子レンジで一番苦手なのが、冷凍食品の解凍です。ムラなく解凍するには、上下から電波を放射するのがベストですが、コストがかかる。これをソフトウェア的に解決したのが、シロカの電子レンジです。また、食品の温度を計測しながら正確に加熱できる赤外線センサーも、上位機種だけでなく標準機にも普及するでしょう。というのも、コロナの影響で顔認識や検温器に用いられる赤外線センサーが量産されて価格が安くなってきているからです。普及価格帯モデルの調理機能に関する進化も加速するでしょう。
田尻 テレビについては、パナソニック『ウォールフィットテレビ』のように、チューナーと分離することで、ディスプレイ側を気軽に壁掛けできる新製品が、今後はLGからもリリースされるようですね。
藤山 4Kの映像を無線で伝送できるようになったのは、テレビに内蔵するCPUの性能向上によるもので、画質の向上にも寄与しています。それとテレビに関して進化の余地があるのはディスプレイの薄型化。フィルム状のディスプレイが開発されており、歩留まりなどが改善されれば実用化されるでしょう。
田尻 昨年はチューナーレステレビが話題になりました。テレビの関心は「きれいな映像を見たい」「ネット動画しか見ない」といったように二極化していて、それぞれに刺さる製品も強化されていくでしょうね。
技術系家電ライター 藤山晢人さん
あらゆる家電を使い込んで比較する技術系家電ライター。「家電おじさん」「体当たり家電ライター」の異名を持ち、本誌をはじめとする媒体で取材・原稿執筆している。
生活家電ライター 倉本 春さん
白物家電やIoT家電、ガジェットなどのレビューをはじめとした情報を発信。元ドッグカフェオーナー兼シェフという経歴から調理家電の使いこなしなどの記事も得意。
本誌編集のテレビ関連担当 タジリ
テレビ、PC、スマホをはじめとする〝黒物家電〟の特集記事などを担当することが多い。最近ではテレワーク環境を改善できそうな、キーボードやマウスの情報が気になる。
未来を感じさせる最新掃除機がコレ!
未来のロボット掃除機は食べこぼしのクセまで学習し自動的に吸い取る!?
アイロボット『ルンバ コンボ j7+』15万9800円(オンラインストア価格)
カメラを搭載し、ペットの排泄物も回避できる。学習機能が進めば部屋ごとに最適な掃除を実行できるようになるかもしれない。なお、本機ではラグやじゅうたんを吸引する際、水拭き用のモップパッドを天面まで持ち上げて格納し、カーペットを一切濡らさない。
未来を感じさせる最新洗濯機がコレ!
未来の洗濯機は水で洗えないおしゃれ着まですっきり清潔に!?
AQUA『まっ直ぐドラム AQW-DX12N』オープン価格(実勢価格約29万7000円)
水洗いできない衣類をミストとUVライトで除菌、消臭、シワ伸ばしをする「エアウォッシュ」は、ダウンジャケットをふっくら清潔に仕上げる。ホームクリーニングの需要に後押しされ、こうした機能の進化や普及も加速しそうだ。
未来を感じさせる最新エアコンがコレ!
未来のエアコンは個々の部屋だけでなく家全体を空調する!?
ダイキン『システムマルチ』シリーズ 各オープン価格(壁掛形の実勢価格約10万4900円~)
室外機の大型化に伴って、1台の室外機で複数の室内機をまかなう〝マルチエアコン〟というタイプも注目が高まりそうだ。ダイキンでは昨年にラインアップを一新し、床暖房などを併用することも提案している。
未来を感じさせる最新冷蔵庫がコレ!
未来の冷蔵庫は断熱材革命が進みコンパクトでも大容量に!
三菱電機『置けるスマート大容量 MBシリーズ MR-MB45J』オープン価格(実勢価格約33万円)
冷蔵庫の最新トピックスとして注目なのが、断熱構造の進化。三菱電機ではウレタンを注入して発泡させるまでのタイミングを見直すことで、筐体が薄くても断熱性能を保ち、高い省エネ性を実現している。今後は幅60cmのスペースでも高性能な冷蔵庫を置けるようになりそうだ。
未来を感じさせる最新電子レンジがコレ!
未来の電子レンジは冷凍食品を自動認識して食べ頃に解凍!?
シロカ『電子レンジ SX-18D132』オープン価格(実勢価格約1万9800円)
食材に熱を通しすぎずに低出力でじっくりと加熱できるのが特徴。ドリップが出ることなく上手に解凍できる。今後は電子レンジが冷凍食品の種類を識別し、加熱する温度と時間を自動的に識別できるようになるかもしれない。
未来を感じさせる最新テレビがコレ!
未来のテレビは高性能化が進んでワイヤレスでも映像がきれいに
パナソニック『ウォールフィットテレビ TH-55LW1L』オープン価格(実勢価格約32万6700円)
石膏ボードを使用した壁に取り付けられる55V型の有機ELテレビ。チューナー部が別体のため、アンテナ端子位置に制約されることなくディスプレイ部を設置可能だ。こうしたテレビの普及により、テレビの置き場所や映像の鑑賞スタイルがより自由になりそう。
取材・文/小口 覺
※本記事内に記載されている商品やサービスの価格は2023年1月31日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。
DIME4月号の特集は「最強のスタートアップ100」「家電の未来予報」
日本におけるスタートアップが変革期を迎えつつある。メルカリ、ビズリーチ、ラクスル、BASEなど、急成長を遂げたこれらの企業に続くのはどこか。投資を目的に、協業を念頭に、転職先探しに、各分野で注目される企業など最前線を紹介する。また、5年後には当たり前になる新世代テクノロジーとともに家電の未来を占います。