今年1月に米国ラスベガスにて開催された世界的なテクノロジー見本市「CES 2023」。そこでは「伸縮する」「透ける」といった革新的なディスプレイが数多く出展された。現地で取材したジャーナリストの西田宗千佳さんに、これらディスプレイが将来どこまで身近になるのか、予想してもらった。
多様なディスプレイが出てきた背景から?
技術が成熟し、PC・スマホ向けディスプレイの価格競争が熾烈になる中、他社との差別化を図る目的で出てきたのが「伸縮する」「曲げられる」「透ける」といった新しい要素だ。街中、クルマ、ウエアラブルなど、あらゆるところをディスプレイの導入先として考え、新たな市場を開拓するためにこれらの要素をどのように活用していけるかが、今後のメーカーの課題。新しいディスプレイを生かす、斬新なデバイスの登場にも期待したい。
ジャーナリスト 西田宗千佳さん
IT、先端技術からエンターテインメントまで幅広い分野の取材を行なっている。近著『メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略』(SBクリエイティブ)ほか著書多数。
伸縮するディスプレイ
スマホというよりハイエンドなタブレットやPCに実装される見通し
身近になる可能性:〇
「伸縮する」ことで、開いた時の縦横比を調整できるのがメリット。例えば折りたたみ構造の『Galaxy Z Fold4』は、スマホとして持ちやすい一方で、開いた時は正方形に近いが「伸縮する」ディスプレイなら、より使いやすい横長にできる。ただし、機構が複雑になる分、価格も高くなるので、当初はスマホではなく、高額なPCやタブレットに採用されそう。「伸縮する」ディスプレイはニーズに対するコストと、剛性のバランスをいかに取るかが課題だ。
大画面のタブレットが 持ち運びやすくなる!
サムスン『Flex Slidable Duet』価格未定
サムスン『Flex Hybrid』価格未定
『Flex Hybrid』のディスプレイは「折りたたみ式」と「スライド式」を組み合わせた構造。開閉に伴って伸縮する。一方の『Flex Slidable Duet』は両方向に拡張できるスライド式のディスプレイを採用。13~14インチサイズからスライドして、17.3インチまで拡張する仕組みだ。いずれも日本での展開は未定。
丸められるディスプレイ
家電やウエアラブル機器の操作パネルとして使われるのが現実的
身近になる可能性:△
20%の伸縮性を持つLGの『ストレッチャブル ディスプレイ』は、曲面に沿わせて配置できるのが特徴。これにより、ウエアラブルやファッション、インテリアから自転車やクルマまで、四角いディスプレイでは難しかった場所にも情報を表示できるようになる。医療用のウエアラブルデバイスをはじめ、様々な業務用途に活用できそうだ。
柔軟で配置しやすくどこでもディスプレイに!
LG『ストレッチャブルディスプレイ』価格未定
最大20%の伸縮性があり、引っ張る、曲げる、ねじるといったことで、様々な形状に配置できるようになる。12インチのフルカラー仕様。現在は開発中。
曲げられるディスプレイ
ゲーミング用途としてひとつのジャンルを形成する可能性大!
身近になる可能性:◎
湾曲したディスプレイ自体は数年前から実用化済みで、視界が覆われて没入感が生まれることから、ゲームユーザーの間では市民権を得ている。その利点を備えるとともに、必要に応じて平面の状態でも使えるようにすることで「中央にいる人以外は映像が見づらい」「左右の端が歪むので写真編集などに向かない」というデメリットを解消したのが「曲げられるディスプレイ」だ。ゲームの種類やユーザーの好みに合わせて、湾曲率を微調整できるのもポイント。LGに続き、他社が追随する可能性は大。ゲーミングディスプレイの1ジャンルになるかもしれない。
LG『LG OLED Flex』オープン価格(実勢価格約43万7800円)
平面から曲率900Rまで、20段階で湾曲率の調整が可能な42V型4Kテレビ。曲面だけでなく、高さや角度もリモコンでフレキシブルに変更できる。40W、2.2chのスピーカーや、エコーキャンセリングマイクも内蔵。ゲームに特化した映像の設定メニューも備える。
フラットな状態から湾曲状態へと電動で変化!
透けるディスプレイ
テレビの用途が検討されているものの現実的にはB to B向け
身近になる可能性:△
「CES 2023」ではLGとJDIが「透けるディスプレイ」を出展していたが、両者では想定している用途が大きく異なる。LGの『OLED T』はテレビ。現段階での透過率は低く、テレビとして視聴する際には背景に黒いスクリーンが必要。実用面についてはかなり疑問だ。一方、JDIの『Rælclear』は液晶方式で、文字などの情報を表示する用途として考えられている。透過率は84%以上で、アクリル板のようにクリアだ。両面にディスプレイの機能があり、窓口などで互いの顔を見ながら、別々の情報を確認する……といった用途で普及していく可能性が強い。
インテリア性の高いテレビとして検討が進む
LG『OLED T』価格未定
デジタルサイネージなどで使われていた同社の技術を家庭用テレビに応用。LGが披露した試作機は透明モードとテレビモードの切り替えをリモコンでできるようにしていた。日本展開などは未定。
裏表に別々の情報が表示され双方向の会話がスムーズに!
JDI(ジャパンディスプレイ)『Rælclear(レルクリア)』価格未定
バックライトなしで情報を表示できる液晶ディスプレイ。「CES 2023」には表裏の両面に文字情報などを表示してコミュニケーションが取れる20.8型モデルを出展。展開時期などは未定。
3Dに見えるディスプレイ
メタバースでニーズが急増!大型化による用途拡大で普及する可能性も
身近になる可能性:〇
裸眼で立体視できるディスプレイは技術的には新しいものではないものの、ここにきて視線を追尾する高速カメラでとらえた映像を、リアルタイムで処理する能力が向上し、実用レベルになってきた。3Dコンテンツが増える中、HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を使用せずに視聴する方法として改めて注目されている背景もある。昨年、ソニーの技術展示で55型の立体視ディスプレイを体験したが、等身大の人が遅延なく立体表示されると実在感が極めて高く、大きなインパクトがあった。低コスト化で一般的に使えるようになる可能性は十分ある。
3Dデータを確認するクリエイター向け
ASUS『ProArt Studiobook 16 3D OLED』価格未定
3.2KタイプのOLEDディスプレイ(16インチ)とともに、レンチキュラーレンズとアイトラッキングカメラ技術を搭載することで、裸眼での高精細な立体表現を実現したクリエイター向けのハイエンドノートPC。日本展開未定。
没入感の高いインチに大型化
ソニー『空間再現ディスプレイ(Spatail Reality Display)27型プロトタイプ』価格未定
目の位置を追尾するアイセンシング技術を用いて、奥行きのある立体表示を実現。『ELF-SR1』(15.6型)は発売中で「CES 2023」においては、さらに大画面の試作機(27型)を公開した。展開時期未定。
取材・文/太田百合子
※本記事内に記載されている商品やサービスの価格は2023年1月31日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。
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