NTTが進める次世代の情報社会基盤「IOWN」の技術を用いた、商用サービス第一弾『APN IOWN 1.0』が3月16日からスタートする。「IOWN」は、通信からデバイスまですべてに光技術を用いる「オール・フォトニクス・ネットワーク(APN)」をベースに構想されている。
APNでは今の100倍の電力効率を実現する低消費電力、伝送容量125倍の大容量・高品質、1/200の低遅延を目指しているが、『APN IOWN 1.0』ではこのうち1/200の低遅延を実現する。具体的にはNTT東日本、西日本が通信ネットワークの端から端まで光波長を専有する法人向けの専用線サービスを提供。あわせてネットワークの両端に設置する専用のAPN端末装置『OTN Anywhere』を販売し、これを用いて遅延の測定と調整を行うことで、1/200の低遅延かつ、ゆらぎのない安定した通信が提供できるという。
いよいよ構想から現実へ
IOWN商用サービス開始について説明するNTT 代表取締役副社長の川添雄彦氏
IOWNの「オール・フォトニクス・ネットワーク(APN)」が目指す3つの目標
超低遅延ネットワークが貢献できると考えられる主な領域
NTT 代表取締役副社長の川添雄彦氏は、「いよいよ構想から現実へということで、第一弾となるAPNサービスを開始する」と話し、低遅延によって、自動運転・交通制御、遠隔操作・制御、リアル・バーチャル連携といった領域で効用が期待できると紹介。すでに遠隔地をAPNで結んだ音楽会や、手術ロボットを用いた遠隔手術支援などの実証で手応えを得ていると話した。
また各地のデータセンターを結べば、全国各地に分散したデータセンターを遅延なく連携させることが可能とし、「今日は北海道の天気がいいので、グリーンエネルギーをたくさん使える北海道のクラウドを、明日は九州のクラウドをといった柔軟な活用ができる」と説明した。
IOWN構想の実現に向け、新たにKDDIも参画
川添氏からは『APN IOWN 1.0』の利用を前提に、オラクル、アマゾン ウェブ サービス ジャパン、エヌビディア、グーグル クラウド ジャパン、理化学研究所、国立情報学研究所、渋谷区、東急不動産、日本取引所グループ、三菱商事、メディカロイド、吉本興業など幅広い分野のパートナーと、ビジネス共創を進めていることも明らかにされた。
「パートナーの皆さんには『APN IOWN 1.0』だけでなく、すでにその先にのIOWN2.0にも多大な期待をいただいている」と川添氏。「新型コロナウイルスや異常気象、世界の分断など人類が直面している課題を解決するには、まだまだテクノロジーが足りていない。IOWNで新しい価値を創造して社会に、そして地球に貢献していきたい」と話していた。
なお、NTTは2020年から「IOWN Global Forum」を立ち上げ、グローバルでも様々なパートナーとともに、IOWN構想の実現に向けた取り組みを進めているが、その参画メンバーが2023年2月時点で117組織、団体となったことや、新たにKDDIが加わったことも明らかにされた。
『APN IOWN 1.0』は法人向けに同一県内にて、月額198万円(APN端末装置は645.7万円~/台)で提供される。
「IOWN2.0」のサービスは大阪・関西万博にあわせて発表される予定だ
NTT東日本、西日本は、『APN IOWN 1.0』のサービスの提供開始にあたって、ユースケースを広く紹介するイベントも開催する。
3月19日には「Open New Gate for esports 2023 ~IOWNが創るeスポーツのミライ~」と題して、渋谷と秋葉原の会場をAPNで結び、eスポーツのエキシビジョンマッチを実施。超低遅延で公平性の高く、離れていても一体感を味わえるミライのeスポーツ観戦体験を提供する。また秋葉原にいるダンスコーチが渋谷の生徒を遠隔指導する、超低遅延リアルタイム映像・音声伝送によるダンスレッスンも予定されている。
さらに翌3月20日には、「未来のお笑イブ!!」と題して、大阪の吉本興業の複数の劇場をAPNで結んだ遠隔漫才、バンド演奏も開催予定だ。遅延のないリモートエンターテインメント体験を提供する。
大阪・関西万博にあわせて発表される予定の「IOWN2.0」に向けて加速する今後の動向に注目したい。
取材・文/太田百合子