一時期、Twitterで、ある石鹸メーカーのツイートが話題となった。それは「重曹とクエン酸を混ぜても中和するので汚れはあまり落ちない」という主旨だ。そのツイートの背景には、世間一般でクエン酸と重曹を混ぜると泡が立つので汚れ落ち効果が増すと記載されているブログやSNS投稿も多く見られ、それに対する答えだ。
とはいえ、口コミでは「汚れが落ちた」という声もあり、実際のところはどうなのだろうか? 調べてみた。
「重曹とクエン酸を混ぜても汚れはあまり落ちない」は本当?
●暁石鹸に聞いてみたところ…
洗濯用や住居用洗剤などを手がける暁石鹸は、自社ホームページ上で、「やってはいけない10ヶ条」の一つとして「重曹にクエン酸を混ぜる」とことを挙げている。
「重曹にクエン酸や酢を混ぜると二酸化炭素が発生して派手に泡が立ちますが、汚れが浮いてくるだけでこびりついた汚れをはぎ取っているわけではありません。」
「時間と資源のムダ遣いはやめましょう。」
やはり汚れはそこまで落ちないようだ。一方で、多少は落ちるらしい。
「たしかに反応熱や二酸化炭素によって多少は汚れが取れます」
詳しく聞くために、暁石鹸に問い合わせてみたところ、顧問の猪ノ口 幹雄氏は次のように回答をくれた。
「反応熱とは、化学反応にともなって放出されたり吸収されたりする熱のことで、反応の種類によって、燃焼熱、中和熱、生成熱、溶解熱、蒸発熱など多くの呼び名があります。
重曹は弱塩基性、クエン酸は弱酸性で、この2つを混ぜると中和反応、つまり塩基性と酸性との反応により塩(えん)と水ができる反応が起こります。
酸と塩基が中和するときに放出される熱を中和熱といいますが、燃焼熱のような高温にはなりません。重曹とクエン酸との中和反応は発熱しますが、水を加えたときに発生する泡(二酸化炭素)が熱を吸収し、その熱を吸収する作用のほうが大きいため、全体として温度は下がります。したがって、重曹にクエン酸や酢を混ぜると、二酸化炭素が発生して派手に泡が立って汚れが浮いてくるだけで、こびりついた汚れをはぎ取っているわけではありません」
●レックに聞いてみたところ…
「激落ちくん」などで知られるレックは、重曹やクエン酸製品を開発・販売している。問い合わせてみたところ、開発担当者から重曹とクエン酸の反応式について教えてくれた。
【重曹(炭酸水素ナトリウム)とクエン酸の化学反応式】
C6H8O7+3NaHCO3→Na3C6H5O7+3H2O+3CO2
つまり、クエン酸+重曹→クエン酸ナトリウム+水+二酸化炭素となる。
「クエン酸ナトリウム水溶液のpHは8.6程度(弱アルカリ性)で重曹水と同程度の酸性汚れ(油汚れなど)に対する汚れ落とし効果があると考えられます。また、発泡(二酸化炭素の発生)による物理的作用も少なからず、汚れ落とし効果があると考えられます。
よって、重曹とクエン酸を混ぜると汚れは落ちるのかという点については『まったく汚れが落ちないわけではないが、汚れの質と程度による。また、質と程度の数値化(見える化)は難しい。』といったところではないでしょうか」と回答が得られた。
まとめると、重曹にクエン酸を混ぜると化学反応で派手に発泡するが、単に二酸化炭素であり、クエン酸ナトリウムと水ができるものの汚れ落ち効果が劇的に高まるものではないということ。要するに「混ぜてもあんま意味ないよ」ということだ。
また、重曹やクエン酸を他のものと混ぜると掃除効果が上がるということはあるのかと尋ねたところ、レックの担当者は「重曹と石けんの組み合わせはよく見かけますが、クエン酸は単独使用以外見かけません。
重曹、クエン酸は合成界面活性剤原料なしで、単体で汚れ落としなどの効果が認められたからこそ、昔からいろいろな生活シーンで使われてきました。何らかを混ぜれば単純に効果は高まるかもしれませんが、逆に良い部分を失ってしまう可能性もあります。混ぜ物で効果を高める考え方ではなく、汚れの種類や場所などをしっかり把握して適材適所、適量で使用することが大事であると考えます」と話す。
重曹とクエン酸は単独で掃除効果が認められているということ。うまく適材適所で使い分けよう。
取材・文/石原亜香利