2. 無断で撮影した動画の裁判における取り扱い
相手に無断で撮影した動画でも、裁判における証拠として提出することはできます。ただし撮影方法などによっては、動画の証拠能力が否定されることもあるのでご注意ください。
2-1. 刑事裁判|違法収集証拠排除法則
刑事裁判では「違法収集証拠排除法則」が採用されており、以下の要件をいずれも満たす証拠物は証拠能力が否定されます(最高裁昭和53年9月7日判決)。
①令状主義の精神を没却するような重大な違法があること
②証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められること
街中など公共の場で撮影した動画については、証拠能力が否定される可能性は低いです。
これに対して、対象者の自宅などプライベートな場所に盗撮カメラを仕掛けて撮影した動画などは、刑事裁判における証拠能力が否定される可能性があります。
2-2. 民事裁判|総合的に判断
民事裁判では、刑事裁判と異なり、厳密な違法収集証拠排除法則は採用されていません。
ただし以下の事情を総合的に考慮して、証拠採用が訴訟上の信義則に反する場合には、動画の証拠能力が否定される可能性があります(東京高裁平成28年5月19日判決)。
・証拠の収集の方法、態様
・違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性
・訴訟における証拠としての重要性
など
民事裁判の上記基準に照らしても、プライベートな場所で盗撮した動画などについては、証拠能力が否定される可能性があるので注意が必要です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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