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職種限定で採用されたはずなのに突然の配転命令を拒み懲戒解雇…会社側が膝から崩れ落ちた大逆転裁判の結果

2023.03.12

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

保険会社で起きた事件です。

会社
「あなたの会社は吸収合併されました」
「これからは保険【販売】の仕事してね」

Xさん
「イヤです」

会社
「本気で言ってんの?」

Xさん
「はい。だって私の仕事は保険販売しなくていい職種に限定されてましたから」

会社
「懲戒解雇!」

Xさんが訴訟を提起。

〜 結果 〜

地方裁判所ではXさん無念。「懲戒解雇はOK」と判断されてしまいました、

しかし!高等裁判所でXさんが大逆転。高裁は「職種限定されてるじゃん」「保険販売への配転命令は無効」「なので懲戒解雇も無効ね」「バックペイ2400万くらい支払いなさい」と大鉄槌(ジブラルタ生命(旧エジソン生命)事件:名古屋高裁 H29.3.9)以下、くわしく解説します。

登場人物

■ 会社
生命保険会社

■ Xさん
営業社員(ライフプランコンサルタント)

どんな事件か

▼ 前の保険会社でのXさんの仕事

Xさんは、かつてはソリューションプロバイダーリーダー(以下「SPL」)でした。保険営業しなくてもいい仕事です。

▼ 吸収合併!

その後、Xさんの会社は吸収合併されました。

▼ Xさんの仕事が変わる

吸収合併された後、Xさんの仕事が変わります。これにXさんがカチンときたんです。職種がライフプランコンサルタント(以下「LC」)として取り扱われることとなりました。

LCになると保険を販売しないといけません。これをXさんが嫌がったんです。Xさんの言い分をザックリまとめると「前の会社では私の仕事はSPLに限定されていた」「なのでLCの仕事をする必要はなく保険販売の義務はない」というもの。

▼ Xさんが反旗を翻す

Xさんは保険契約をとろうとはしませんでした。上司とのやりとりを一部抜粋します。

上司
「会社の納得の行く説明であったり、ちゃんと会社が話をするまでは、契約を取ってくるつもりはナイと。これは、本気でいらっしゃいますか?」

Xさん
「はい」

上司
「保険契約をとる気はないんですか?」

Xさん
「はい」

会社は「何だコイツ!」と思ったのでしょう。

▼ 諭旨解雇

まずは諭旨解雇を提案します。

Q.諭旨解雇って何ですか?

A.懲戒解雇をワンランクマイルドにした解雇です。温情で退職金が出るケースが多いです。

まずは会社とXさんとの間で話し合いが行われました。会社はXさんに対して誓約書への署名を求めました。その誓約書には「5ヶ月も保険販売をしなかったことを反省する。今後最大限努力する」などが書かれていました。

しかし、Xさんは「全部、異議がある」として署名を拒否。上司から「保険をとるために努力してこなかったことを反省しているか?」と聞かれたときには「反省していない」と答えました。会社はカッチーン。

▼ 懲戒解雇

ついに会社はXさんを懲戒解雇にしました。懲戒解雇にした理由は以下のとおり。

・仕事やる気ねーじゃん(意図的に保険販売行為を放棄)
・サクセスプランナーを提出しない
・その他、業務命令違反

▼ Xさんの主張

Xさんが訴訟を提起。主張は以下のとおり。

・私の職種はSPLに限定されていた。
・なのにLCに配転された。配転命令は無効。
・保険販売義務などがないので懲戒事由はない
・よって懲戒解雇は無効だ

というもの。

地方裁判所の判断

地裁ではXさんは負けちゃいました。「懲戒解雇はOKです」と判断しました。

・職種限定の合意は【ない】
・LCへの配転命令は有効
・それに従わなかったので、懲戒解雇もOK

Xさんは控訴。

高等裁判所の判断

高裁でXさんが逆転勝訴!

▼ 職種限定の合意は【あった】

採用の経緯などを見て裁判所は「職種限定の合意はあったね」と判断。

具体的には「少なくとも固定給の保証された入社後2年程度の間は、職種をSPLに限定し、その業務内容としては、SPの採用育成及びユニットの運営等に限定されており、直接的な営業活動を行うことは義務的な業務とはされていなかったものと認められ、その限度での職種限定合意はあった」と認定

▼ LCへの配転命令は無効

裁判所はザックリ以下の理由を述べて無効と判断しました。

・これまでの経緯に照らせばXさんの意向を十分に聴取し、可能な限りSPLの業務と同等かそれに近い職種に移行することができるよう配慮すべきだった。
・管理職から一般社員への懲罰的な降格人事ともいえる

として「人事権の濫用にあたり無効」と結論づけました。

▼ 懲戒解雇も無効

というわけで懲戒解雇も無効となりました。

▼ 衝撃のバックペイ

解雇が無効となると衝撃のバックペイが会社に襲いかかります。バックペイとは【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】のことです(民法536条2項)。

今回のケースでは、約4年半の給料の支払いが命じられました。月額50万なので2400万近くかな。会社はリング(法廷)の中央で膝から崩れ落ちたでしょう…。

Q.転職してしまった場合は、どうなるんでしょうか?

A.転職したとしても基本、6割の給料をもらえます。ただし「元職場に戻る意思がある」と認定できる期間分だけです。裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降はもらえません。でも、かなりデカイですよね。会社からすれば衝撃です。

▼ 損害賠償も

タオル投入で試合は終わっているのに、トドメに裁判所は「100万円の慰謝料も払いな」と命じました。相手が戦意喪失状態となっていようが原告の請求すべてをキチント判断する、これが裁判です。

従業員が勝った裁判例

職種限定の合意が認められることは少ないのですが、今回は認められましたね。

ほかにも裁判所が「職種限定の合意があったね」と認定した裁判例があります(東京海上日動火災保険(契約社員)事件:東京地裁 H19.3.26)。

詳細は割愛しますが【この職種で】採用されたにもかかわらず会社が「その職なくなるから別職種で働いてね」と通告した事件です。裁判所は「別職種への配転命令は無効と判断」。気になる方は事件名でググってみてくださいね。

さいごに

転勤命令や部署異動命令が出ている時期です。以下の命令には従わなくてもOKです。

・不当な動機・目的で転勤命令が発令されたとき
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
・上記2つに匹敵するくらいやりすぎケース
(東亜ペイント事件:最高裁 S61.7.14)

会社から嫌がらせの命令が出された方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「こんなこと解説してくれや!」があれば、下記URLからポストお願いします。
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