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身体障害を持つ両親の介護があるのに北海道から東京へ転勤…裁判で転勤命令が違法と認められる境界線

2023.03.09

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

「両親の介護をしなければならないのに」
北海道から東京へ転勤!?」
「両親86歳、81歳で…」
「身体障害者等級1級、4級よ…」

そこで5名の社員は「転勤命令は違法だ!」と会社に訴訟を提起。損害賠償請求しました。

~ 結果 ~

社員さんの勝訴です。裁判所はザックリ「この転勤命令は耐えれないでしょ」と判断。150万円の損害賠償請求を認めました(NHK東日本(北海道・配転)事件:札幌高裁 H21.3.26)。

ほかの4名は負けちゃたんですが。以下、くわしく解説します。

登場人物

会社はNTT東日本。原告は5名(以下「A~E」)。全員、北海道で働いていました。

▼ 結論

Eさんだけが勝ちました(150万円の損害賠償請求が認められた)。A~Dさんは残念ながら敗訴。どんな事件か見ていきます。

どんな事件か

▼構造改革だ!

NTTグループが時代の流れに合わせて業務の方法をガラっと変えることになりました。「3か年経営計画」を策定し、固定電話まわりの業務を外注委託することに。さらにサービスオーダ業務の外注も実施することになりました。

▼ 配転命令

その結果、Aさんらの業務が消滅することになりました。そこで会社はAさんらに配転命令を出しました。A~Dさんは北海道内での転勤Eさんは東京への転勤です。

Aさんらは「この配転命令は違法だ。損害賠償請求する」と訴訟を提起(B・C・D・Eさんは会社を辞めています)

地方裁判所の判断

地方裁判所では全員勝訴だったんです。裁判所は「配転させる業務上の必要性がないわ」と判断しました。認められた損害賠償額は以下のとおり。

A~D 50万円
E  100万円

高等裁判所の判断

しかし高裁はチャブ台返し。A~Dの請求を棄却。Eさんだけが勝訴です。Eさん慰謝料がアップしてます(100万円 → 150万円)。以下、理由を解説します。

▼ 大前提

裁判所は過去の最高裁さまが出した基準に従って判断します。過去の最高裁さまは「以下の場合は配転命令は無効」と言ってます。

・業務上の必要性がない場合
・必要性があったとしても、以下の3つの場合は転勤命令はダメ
・不当な動機・目的で転勤命令が発令されたとき
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
・上記2つに匹敵するくらいやりすぎケース

▼ 本件

この基準にしたがって、今回の高裁は「業務上の必要性はあるじゃん」と認定。理由は以下のとおり。

・固定電話事業の減退などが原因で会社の財務状況が悪化
・従業員の雇用確保も危ぶまれるという事態が懸念された
・以下のような構造改革の必要性があった
 事業構造を電話中心から情報流通へ転換
 法人営業を中心としたIT 機能の強化等による収益を獲得
・構造改革によってある業務が外注されることになり、その業務がなくなる
・配転させる人の選定が不合理ではない(Aさん~Eさんの能力や過去の経験を考慮している)
・配転は業務の効率化などの観点から会社の合理的運営に寄与する

以上の理由から「業務上の必要性はあるじゃん」と認定。

▼ 転勤に耐えれる?

しかし!

業務上の必要性があったとしても「これは従業員員は耐えれないよね」となれば配転命令は違法となります。5名、順番に見ていきます。

■ A~Dさん

結果、裁判所は「耐えれる」と判断。

A~Dさんは以下のとおり主張しました(ザクっとまとめてます)


持病の発作が起きるかもしれない
夜間や休日に親の世話ができない
次女の世話ができなくなった
自宅を管理できなくなる
今まで食事を作ったことがなかったのに生活を新しくやり直すことになる
妻の生活サイクルが狂う


しかし裁判所は「そんな事情は伺われない」「そんな証拠はない」「それは耐えてよ」などと判断。最後の「耐えてよ」を難しい言葉で言うと「通常甘受すべき程度を著しく超えるとは言えない」というものです。

■ 寂しさはガマン

Bさんは「身内や知人のいない場所で生活するなんて…」と主張したのですが、

寂しさは我慢せーってことですね。

■ Eさん(北海道 → 東京)

Eさんについては高裁は「これは耐えれない」と判断。両親の介護が必要不可欠だったからです。介護の状況は以下のとおり。


 86歳、身体障害者等1級(緑内障による視力障害)、要介護3

 81歳、身体障害者等4級(膝関節機能の全廃)

日々の状況は以下のとおり。

判決文より引用

これらの事実を認定した上で裁判所は「両親の介護ができるのはEと妻だけ」「Eが単身赴任して妻が1人で介護することは困難」「実際に東京に転勤した後でもいろいろな問題が発生していた」として、「これは耐えれない(=通常甘受すべき程度を著しく超える)ので違法」と判断。

以下の条文も根拠に挙げています。

育児介護休業法 26条
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない

さいごに

Eさんは社長に書面を送り「両親の介護が必要だ」ということを訴えていたようですが、会社配転命令を実行しています。

もし会社が聞く耳をもってくれなければ労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
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