他人の土地を長年占有している場合、所有権を時効取得できる可能性があります。今回は、土地を時効取得するための要件や手続きをまとめました。
1. 時効取得とは
「時効取得」とは、物の占有を一定期間以上継続した人に対して、その物につき所有権等の権利を認める制度です。
「占有」とは、物を現実に支配している事実・状態をいいます。所有者でない人が物を長年支配(占有)している場合、現実の状態に権利を合わせるべきとの価値判断から、時効取得が認められています。
2. 土地を時効取得するための要件
土地については、10年間または20年間の占有による時効取得が認められています(民法162条)。時効取得の要件は、以下のとおりです。
(1)10年間or20年間の占有継続
(2)所有の意思
(3)平穏な占有
(4)公然の占有
(5)占有開始時の善意無過失(10年占有の場合のみ)
2-1. 10年間or20年間の占有継続
10年間または20年間、土地を継続的に占有したことが必要です。期間中に一度でも占有が途切れれば、時効取得は認められません。
ただし、ずっと占有していたことを立証するのは難しいので、占有開始時と期間経過時における占有をそれぞれ立証すれば、その間の期間における占有は推定されることになっています(民法186条2項)。
2-2. 所有の意思
権利の性質から客観的に判断して、所有者として占有を開始したことが必要です。たとえば、土地を所有者から借りる形で占有を開始した場合には、所有の意思が認められません。
なお、所有の意思は法律上推定されるため(民法186条1項)、時効取得を否定する側が「所有の意思がないこと」の立証責任を負います。
2-3. 平穏な占有
占有の開始または継続に関して、違法・強暴の手段を用いていないことが必要です。たとえば、暴力団員に所有者を脅させて追い出した場合などには、平穏な占有が認められません。
なお、平穏な占有は法律上推定されるため(民法186条1項)、時効取得を否定する側が「平穏な占有でないこと」の立証責任を負います。
2-4. 公然の占有
所有者に対して、土地を占有している事実を隠していないことが必要です。たとえば、所有者から問い合わせを受けた際に土地の占有を否定していた場合などには、公然の占有が認められません。
なお、公然の占有は法律上推定されるため(民法186条1項)、時効取得を否定する側が「公然の占有でないこと」の立証責任を負います。
2-5. 占有開始時の善意無過失(10年占有の場合のみ)
10年間の占有継続による時効取得を主張する場合は、占有開始当時に土地が自己の所有物であると信じており(善意)、かつそう信じることについて過失がないこと(無過失)が必要です。
「善意」については法律上推定されるため(民法186条1項)、時効取得を否定する側が「所有者でないと知っていたこと」の立証責任を負います。
一方、無過失については推定されないため、時効取得を主張する側が、過失がないことを基礎づける評価根拠事実の立証責任を負います。
3. 取得時効を主張する手続き
土地を時効取得した場合、その事実を第三者に対抗するためには、時効取得を原因とする所有権移転登記を経る必要があります(民法177条)。
所有権移転登記手続きは、原則として前所有者と現所有者が共同で行わなければなりません(不動産登記法60条)。
ただし、前所有者に対して登記手続きを命ずる旨の確定判決があれば、現所有者が単独で時効取得の所有権移転登記を申請できます(同法63条)。
したがって、前所有者が登記手続きに協力してくれない場合は、前所有者を被告とする登記手続請求訴訟を裁判所に提起しましょう。
訴訟において時効完成の要件事実を立証し、かつ時効の利益を受ける意思表示(=援用)を行えば、前所有者に対して登記手続きを命ずる旨の判決を得ることができます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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